3次元でテクスチャを定義

 自動処理でのテクスチャ増殖は別にして,露光用フィルムのパターンとして2次元のテクスチャをパソコンで作成すること自体は,既にシボ加工会社も実行している。しかし,それをコンピュータで立体データとして定義する作業は行われていない。この作業を,米SensAble Technologies社の3次元モデリングソフト「FreeForm」で実行できるようになった(図5)。

図5●モデリングソフト「FreeForm」を用いた3次元テクスチャの作成
ケイズデザインラボの「D3TEXTURE」の作業工程。3次元CADのモデル(ここでは平板状の部品)にテクスチャを張り付け(a),シボを彫り込みたい場所以外をマスクし(b),シボの凹凸形状を当てはめる(c)。マスク部分以外に凹凸ができた状態が(d)。マスクを反転させて,別のシボを与えることもできる(e)。シボの境界はなじませる必要があるが(f),これもFreeForm上でオペレーターが微調整できる(g)。現在のエッチングによるシボの工程に,おおむね対応した作業といえる。
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部品表面に凹凸を定義

 FreeFormには樹脂部品の3次元CADデータの読み込みが可能で,さらに草花のような絵柄の2次元画像データや,梨地や石の地肌のような凹凸テクスチャの2次元画像データなどを読み込める。凹凸テクスチャのデータは,濃淡に応じて高さを与え,立体化する。この凹凸データを樹脂部品のデータから引き算(あるいは足し算)して,シボの凹凸を表現した3次元部品データにしていく。

 このとき,絵柄をマスクにして,それ以外の地の部分にテクスチャを当てはめるなど,細かい操作ができる。マスクを反転して,絵柄の部分には別のテクスチャを適用し,結果としてシボとして異なった調子のものを使い分けることも可能だ。

 この作業には,実際にはデザイナーとしての感性がかなり必要になり,実質的に手作業に近いことになる。まず,テクスチャデータの大きさ(細かさ)と部品の大きさは,必ずしもマッチしているとは限らない。テクスチャデータが部品の大きさに比べて十分大きくないと,拡大したときに粗さが目立ってしまう。それを防ぐためには,小さなテクスチャを何回も適用して部品全面を埋めるような操作になる。前述の,テクスチャの自動増殖技術は,こういう場面でも役に立つと考えられる。

 さらに,曲面に対してのテクスチャの当てはめも,かなり熟練を要する作業だ。現状のシボでいうと,金型表面に露光用フィルムを張っていく作業に相当する。シボ加工会社はフィルムを改良し,曲面になじみやすいよう多少は伸縮するものにしているが,限界はある。複雑な起伏のある曲面形状ではフィルムを部分的に切ったり,つなぎ合わせたりした上,合わせ目が目立たないようにうまくテクスチャを描き加えたりする作業が必要になる。

 コンピュータでは物理的な制約がないため,自由に張り付けられるが,シボとしてはかえって不自然なものになる危険がある。いくらでも伸び縮みさせられる「理論的フィルム」を使えることに相当するが,たくさん伸ばした部分のテクスチャは当然ながら粗くなるためだ。従って,コンピュータを使っても,ある程度は現状のシボと同じような作業にならざるを得ない。