アベノミクスがもたらした円安や株高によって、大企業を中心に景気回復への期待が徐々に高まりつつある。だが、中小企業の設備投資では依然として慎重な姿勢が見られ、多くの一般消費者も所得の改善をまだ実感できていないのが現状だ。
本業が厳しい一方、為替や株価の変動を目にすると、財テクで利益を得ようと考える企業も出てくるだろう。しかし、こうした状況下においてこそ企業活動の基本を見つめ直し、それに即した適切なIT活用を考えることが大切だ。
そこで今回は創業から41年間の平均経常利益率が39%という驚異的な数値を誇る「エーワン精密」への取材を踏まえて、中小企業が取り組むべきIT活用について考えていくことにする。
現時点で好業績の製造業は以前から努力を続けている
ノークリサーチが2013年4月に実施した定点観測調査の結果でも、中堅・中小企業の経常利益増減やIT投資意向のDI値(「プラス」の割合から「マイナス」の割合を引き算した指標)はいずれも改善を示している。つまり、「業績が良くなった」と考える企業の割合が「業績が悪い」と考える企業の割合よりも少し増えたことになる。
しかし、図1をご覧いただきたい。これは年商500億円未満の製造業に対し、2013年1月と同4月の経常利益を比較した時の増減を尋ねたものである。
「ほとんど変化なし」が半数近くを占め、中小製造業の多くが引き続き厳しい状況に直面していることが分かる。しかし、DI値の変化が示すように業績改善した企業が存在することも確かだ。
図2は経常利益が増加したと回答した年商500億円未満の製造業に対して、理由を尋ねた結果である。回答の上位7項目をプロットした。
「円安で輸出販売が増えている」は7項目中では最も少なく、「新たな製品やサービスが好調である」が最も多く挙げられている。大手製造業は為替差益の恩恵を受けているが、中小製造業には伝播しておらず、アベノミクス以前から取り組んでいる新規の製品やサービスが昨今の業績改善の一因となっている状況がうかがえる。
鋳造加工を得意とする愛知県の「ドビー」が開発した無水鍋「バーミキュラ」や、東京都西多摩で半導体装置などの受託生産を手掛ける「ティーエヌケー」が新たに取り組む福祉用具(ベッドと車いすの間を移動する際の助けとなる器具など)が、その具体例として挙げられる。