2012年、DRAMでもフラッシュメモリーでもない“第3のメモリー”の量産出荷が始まった。DRAM並みに高速でありながら、フラッシュ同様に電源をオフにしてもデータが消えない「新世代不揮発性メモリー」だ。新メモリーによってコンピュータのアーキテクチャーは激変し、入出力(I/O)の大幅な高速化が実現すると共に、消費電力は激減する。

 コンピュータには、高速だが電源をオフにするとデータが消える「主記憶装置(メインメモリー)」と、低速だがデータが消えない「外部記憶装置(ストレージ)」という2種類の記憶装置がある。

 こんなコンピュータアーキテクチャーの常識が一変する可能性が出てきた。DRAM並みに高速でありながら不揮発性を備えた「新世代不揮発性メモリー」の量産出荷が始まったからだ。

 「DRAM並みに高速な不揮発性メモリーは、主記憶として利用できる。主記憶が不揮発化すれば、主記憶と外部記憶は一体化が可能になり、コンピュータのアーキテクチャーは一変する」。国立情報学研究所(NII)の佐藤一郎教授はこう指摘する。

 主記憶が不揮発化すれば、コンピュータの電源をオフにしても、直前のメモリーの状態が保持され、電源再投入後には元の状態にすぐに復帰する。そのため、コンピュータやメモリーの電源を普段はオフにし、使用する時だけオンにする「ノーマリー・オフ・コンピューティング」が実現する。普段は電源をオフにしておくことで、コンピュータの消費電力は、大幅に減る。

大手メーカーが量産出荷開始

 2012年7月、大手メモリーメーカーの米マイクロン・テクノロジーは、容量が1ギガビットと512メガビットの「相変化メモリー(PCM)」の大量生産を世界で初めて開始した。

 PCMは、新世代不揮発性メモリーの一種で、入出力(I/O)がDRAM並みに高速だ(図1)。PCMの読み出し遅延は100ナノ秒(1000万分の1秒)以下、書き込み遅延は1マイクロ秒(100万分の1秒)以下。ハードディスクドライブ(HDD)と比較すると、読み出しは10万倍以上、書き込みは1万倍以上も高速だ。

図1●新世代不揮発性メモリーの速度
新世代不揮発性メモリーの一つ「PCM(相変化メモリー)」は、読み出し遅延(レイテンシー)が100ナノ秒以下、書き込み遅延が1マイクロ秒以下である。読み出し遅延、書き込み遅延とも10ミリ秒かかるハードディスクドライブ(HDD)に比べると、読み出しは10万倍以上、書き込みは1万倍以上速い
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 PCMは韓国サムスン電子もサンプル出荷を既に始めている。PCMとは異なる新世代不揮発性メモリーの製品化を進めるメーカーもある。半導体メーカーの米エバースピン・テクノロジーズは2012年11月、容量64メガビットの「スピン注入型磁気記録メモリー(STT-MRAM)」の限定出荷を始めた。また東芝と米サンディスクは2013年2月に開催される半導体の国際会議「ISSCC 2013」で、容量32ギガビットの「抵抗変化型メモリー(ReRAM)」を発表した。

フラッシュとは原理が異なる

 PCM、STT-MRAM、ReRAMは、現在の代表的な不揮発性メモリーであるフラッシュメモリーとは異なる原理を採用する(図2)。

図2●新世代不揮発性メモリーの原理と種類
メモリーセルに「電荷」を蓄えることでデータを表していたフラッシュメモリーに対して、新世代不揮発性メモリーはメモリーセルの「抵抗値」を変えることでデータを表す
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 フラッシュは、メモリーセルに電荷を蓄え、電荷の有無でデータを表す。それに対して新世代不揮発性メモリーは、メモリーセル素材の状態(物性)を何らかの方法で変化させ、その素材の抵抗値を変える。抵抗値が変わると電流の量が変化するので、電流の大小でデータを表せる。

 PCM、STT-MRAM、ReRAMはそれぞれ、使用する素材や抵抗値の変え方が異なる。例えばReRAMは、電圧を加えることで抵抗値が変わる「金属酸化膜」という素材を使用する。

 新世代不揮発性メモリーは、将来的にDRAMやフラッシュを置き換える可能性がある。「DRAMとフラッシュは近い将来、製造プロセスの微細化が限界に達する」(メモリー研究者である中央大学理工学部の竹内健教授)とみられているからだ。

 DRAMとフラッシュはいずれも、メモリーセルに電荷を蓄える仕組みだ。製造プロセスの微細化が進み、メモリーセルが小さくなりすぎると、蓄えた電荷の有無を判別できなくなる。その限界にあと2~3年で到達する見込みだ。

 一方、新世代不揮発性メモリーは原理や素材が異なるので、DRAMやフラッシュよりも製造プロセスの微細化が見込める。メモリーの容量拡大やビット単価の低下は、製造プロセスの微細化に依存する。製造が始まったばかりの新世代不揮発性メモリーは、現時点ではDRAMやフラッシュよりも容量が少なく、ビット単価は高い。しかし将来的にはこれらが逆転する可能性がある。

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