スマホを導入するユーザー企業が急増している。日本情報システム・ユーザー協会が2月27日に発表した「企業IT動向調査 2013」(速報値)によると、2012年度にスマホを「導入済み」の企業は28.0%と、この2年間で約3倍に増えた(図3)。タブレットも同様のペースで導入が進んでいる。
ただし、それらの用途は限定的だ。ガートナージャパンが実施した調査では、スマホの利用目的(複数回答可)のほとんどが「メール」(92.6%)、「スケジュール管理」(79.5%)、「グループウエア」(47.2%)だった。ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理)といった業務システムでの利用は10%に満たない。現在、ほとんどの企業は「スマホファースト」ではなく、「PCファースト」であるのが実態である。
そうした中で、いち早くスマホファーストに挑んだ企業は、PCと根本的に異なるスマホの特徴を見極め、発想を転換してスマホ活用をIT戦略の本流に据えた。単にPCを置き換える発想では、メールやスケジュール管理といったスマホ活用の「初級編」からいつまでも抜け出せない。
例えば、「画面が狭い」「キーボードがない」といった制約をスマホ活用の課題と捉えるのではなく逆手に取る。また、内蔵カメラや画面のタッチ操作による直感的なユーザーインタフェース、端末コストの安さなどスマホならではの特性を存分に生かす、といった発想が必要である。スマホファーストに舵を切ったソニー生命の事例から見ていこう。
スマホでプロセス一新、内蔵カメラを活用
──ソニー生命
生命保険の外交員が利用するシステムの開発で、スマホファーストに取り組んでいるのがソニー生命保険だ。「一部の業務を除けば、外交員のほとんどの業務をスマホ上でできるようにした」(ソニー生命 共創戦略部の長谷川樹生統括部長)。
同社での取り組みで注目したい点は二つある。一つは従業員個人のスマホを業務用スキャナーとして活用していること。もう一つが、個人情報を端末に保存しなくてもコールセンター並みの応対ができるようにしたことだ。
同社は2012年10月、生命保険の加入手続きなどに用いる顧客管理システムを「C-SAAF」として刷新。ペン入力が可能なタブレットPCを約5000台導入し、顧客と面会をしながら、その場で契約手続きを完結できるようにした。同社の取り組みがユニークなのは、外交員個人が保有しているスマホの利用を前提に、システムを企画・開発した点だ。
例えば、生保の加入に必要となる顧客の健康診断書を外交員がスマホで撮影し、システムに送信できるアプリを開発した(図4)。従来は顧客に複数枚の健康診断書を紙で提出してもらっていたが、新システムでは顧客が持つ原本を外交員がスマホで撮影するだけで済む。健康診断書という顧客の重要な個人情報を外交員が紙で持ち歩く必要がなくなり、情報漏洩リスクを低減した。
デジタルカメラではなくスマホで撮影するのは、撮影データを自動消去し、ファイルとして残さないようにするためだ。ソニー生命は、独自のスマホ向けカメラアプリを開発。「撮影と同時に画像をタブレットに送信し、スマホには原理的に画像ファイルが残らないようにした」(IT戦略本部 IS開発2部高谷哲朗担当課長)。タブレット上の画像も本社のシステムへの送信後に自動消去される仕組みだ。デジカメで健康診断書を撮影し、PCに移してシステムに送信する「PCファースト」の方法では、ここまでセキュリティを徹底することは難しい。
コールセンター並みの応対も
ソニー生命では情報漏洩リスクを低減するため、外交員のスマホの電話帳に顧客の連絡先などを登録することを禁止している。だが、顧客から電話がかかってくると、外交員の私物端末には相手の氏名や保険の加入状況、家族構成などが表示される(図5)。
仕組みはこうだ。スマホ内の専用アプリが着信を検知すると、インターネット経由で同社のデータベースを検索。着信後1秒ほどで顧客の情報を着信画面に表示する。顧客と通話しながら詳細な契約情報を確認し、その場で問い合わせに回答できる。電話の機能を備えつつ、それと連携したアプリを手軽に開発できるスマホでなければできない芸当といえる。