グローバル対応は大多数の日本企業にとって喫緊の課題。カギを握るのは、「経営に必要なデータ全てを一元化する」「グループ全体の業務の流れを標準化する」といったERP(統合基幹業務システム)の特徴を最大限に生かすことだ。「俊敏なグローバル経営」の実現を目指し、世界統一のERP導入を進める先進企業3社の事例から最適解を探る。

エンプラスの酒井崇取締役兼常務執行役員
エンプラスの酒井崇取締役兼常務執行役員

 「日本に本社を置き続ける必要はないと考えている」。精密プラスチック加工メーカーであるエンプラスの酒井崇取締役兼常務執行役員は、こう言い切る。

 連結売上高207億2300万円(2012年3月期、以下同)である同社の海外売上高比率は55.2%。主要事業の一つである、プラスチック光学素子を作るオプト事業の場合、取引先の95%が海外企業だ。「日本にこだわらず、取引先に近い場所に本社を含む事業の中心機能を移したほうが効率はよい」と酒井常務執行役員は話す。

富士フイルム ホールディングス経営企画部の水野滋夫IT企画グループ長
富士フイルム ホールディングス経営企画部の水野滋夫IT企画グループ長

 一方、売上高2兆1953億円のうち海外売上高が53.8%を占める富士フイルム ホールディングスは、新興国への進出や企業買収を急いでいる。2011年には9~11月の3カ月で、ウクライナ、韓国、ベトナム、インドネシアといった新興国に拠点を相次ぎ設立。医療事業を中心に全世界でM&A(合併・買収)を活発化している。

 「拠点の立ち上げやM&Aは時間が勝負。すぐに事業を展開できる仕組みが不可欠だ」と、経営企画部の水野滋夫IT企画グループ長は強調する。

 こうしたグローバル事業に関わる要請に応えるため、エンプラスと富士フイルムが着目したのはERPの活用だ。エンプラスはERPで構築した新たな基幹系システムの利用を、11年7月に国内外14拠点から開始。富士フイルムは新システムを順次構築しており、18年までに国内外のグループ151社に導入していく。日本では13年春に利用を始める計画だ。

世界で一つのERPを実現

 エンプラスと富士フイルムは、これまでとは異なる形でERPを導入した。「シングルインスタンス」を実現したのだ(図1)。

図1●グローバルでのERP導入方法の変化
アプリケーションとデータベースを統一した「シングルインスタンス」が増えてきた
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 シングルインスタンス(正しくは「グローバル・シングル・インスタンス」)とは、国内外のグループ会社全体で、実体として単一のERPシステムを利用する形態を指す。「欧州」など独立性の高い地域・事業部門単位で単一のERPシステムを利用する場合も、シングルインスタンスとみなせる。

 シングルインスタンスの狙いは、ERPのメリットを最大限に生かすことにある。「経営に必要なデータをリアルタイムで収集し、一元管理して活用できる」「グループ全体の業務の流れを標準化できる」が典型的なメリットだ。

 ERPの利用範囲を広げ、グループ全体でデータの一元化・業務の標準化を実現すれば、導入効果を最大化できる。売り上げや売掛金、在庫といった世界中のあらゆる経営データが、リアルタイムで一つのデータベースに集まる。「受発注処理」といった業務の流れが、日本でも海外でも同じになる。

 エンプラスは全拠点で単一のERPを使う。富士フイルムは欧州、アジア・パシフィック、日本・中国、北米、南米の5極にERPを置き、各極の中でデータ統合や業務の標準化を図っている。同社は各極を独立した事業主体とみなすマネジメント体制を目指しており、「5極が経営にとって最適な形」(富士フイルムの水野グループ長)としている。

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