2012年末、米Microsoftの開発環境がクラウド版として登場した。それが、Azure上で提供される「Team Foundation Service」だ。クラウド化によって、環境構築のしやすさや性能の向上といった利点がある。英語表記やセキュリティに注意すれば、利用価値は高いだろう。

 米Microsoftは2012年11月、開発環境のソフトウエア製品「Team Foundation Server(TFS)」のクラウド版の提供を始めた。名称は「Team Foundation Service(クラウド版TFS)」。同社のクラウドサービスAzure上で提供するSaaS(Software as a Service)であり、当面は無償で提供する。2013年中に有償サービスになる予定だ。

 クラウド版TFSの機能はソフト版TFSとほぼ同じで、提供形態のみ大きく異なる。日本マイクロソフトの長沢智治氏(デベロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリスト)は「ソフト版のいくつもの限界をクラウド版で突破できる」と説明する。

現場の五つの問題を解消

 TFSになじみのない読者は、TFSはテスト管理機能やタスク管理機能だけを備えたツールだと思っているかもしれない。だが、そのカバー範囲は広い。タスク管理や成果物管理、進捗管理、テスト管理、ビルド管理、リリース管理など多岐にわたる。OSS(オープンソースソフト)でそろえるなら、タスク管理ソフトのRedmine/Trac、成果物管理ソフトのSubvirsion/GIT、ビルド管理ソフトのJenkinsを包含していると考えればよい。

 また、対象のプログラミング言語はVBやC#だけでない。Java、RubyやPHPなどの軽量言語もサポートする。TFSは、ソフト版のときから多くのIT現場で利用できるツールなのだ。

 では、クラウド版TFSにはどんなメリットがあるのか。「クラウド版の開発環境が求められている理由」として、オンプレミスの開発環境の問題を五つ挙げた(図1)。

図1●オンプレミスの開発環境の問題
図1●オンプレミスの開発環境の問題
オンプレミスの開発環境には、大きく五つの問題があった。これを解消するのが、米MicrosoftがAzure上で提供を開始した「Team Foundation Service」である

 一つは「環境構築に時間がかかる」点だ。OSSの複数ツールを組み合わせて環境を構築する場合、設定まで含めて2~3日程度かかることがほとんどである。これがソフト版TFSになると2~3時間で済む。さらにクラウド版TFSを利用すると、数分で環境を構築できる。具体的には、新たなプロジェクトを追加し、適用する開発プロセス(アジャイルなど)を選択する。あとは利用可能なユーザーを設定すればよい。「開発環境の構築は煩わしい」と感じていた現場は多く、開発環境のサービス化の利点は大きい。

 二つ目は「処理性能が不足する」という点だ。現在、開発環境上でテストやコンパイル、ビルド(結合)を頻繁に行うアプローチが広がっている。これを「CI(継続的インテグレーション)」と呼ぶが、ここでの問題の一つが性能だった。サーバー機のスペックによっては処理が遅くなり、待ち時間が発生して開発生産性の低下を招いていたのである。

 クラウド版TFSはAzure上のサービスなので、サーバー機のリソースを柔軟に変えられる。処理に時間がかかるテストやコンパイル、ビルドを実行する場合、CPUやメモリーを追加できるということだ。実際には「リソースに応じた課金体系を予定している」(長沢氏)というが、自前のサーバーに比べて柔軟に対応できることは間違いないだろう。

 三つ目は「環境のアップデートが煩わしい」という点である。開発環境は時代とともに進化するものだ。例えば今でこそ広がりを見せるCIは、ビルドのスケジューリング機能などの追加によって実現できるようになった。チーム開発が主流となり、ソースコードをリポジトリーに登録(チェックイン)する際のチェック機能も最近追加されている。

 こうした頻繁に追加される機能の恩恵を得るには、開発環境を常にアップデートしなければならない。ソフト版でオンプレミスの開発環境を構築した場合、アップデートには時間や手間がかかる上に、問題が生じるリスクも大きい。クラウド版なら、こうしたアップデートをサービス提供側が行うので、手間や時間を要することなく、常に最新機能を利用できる。

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