■本連載は、「解説編」と「提案編」で構成されています。初回が製品/サービスや技術、市場動向、発注時のポイントなどの解説です。2回目以降はベンダー各社による提案を個別にまとめてあります。

 東日本大震災から丸2年が経過する。その間、企業の情報システムやネットワークの障害対策の強化はどの程度進んだのだろうか。

 震災の影響でネットワークや情報システムの停止を経験した企業はもちろん、他社の被害を目の当たりにしてシステム/ネットワーク運用に危機感を抱いた企業からは、事業継続計画(BCP)を見直したいという声が多く聞かれた。にもかかわらず、全体を見渡すと、必ずしも企業ネットワーク/システムの改善が進んでいるとは言い切れない。一般に、広域災害対策には莫大なコストがかかるためだ。

 典型例がディザスターリカバリーの仕組みで、システム停止に備えて、数十km以上離れた場所(データセンターなど)にスペースを確保してバックアップシステムを設置する。そこにデータをバックアップする回線、そして障害時でも切れない冗長化されたネットワークも欠かせない。このように投資額が膨らんでいくと、容易には実践できない。このため実態としては、多くの企業が具体的な行動になかなか踏み切れていない。

 多くの企業がWANの設計、構築、運用保守を外部ベンダーに委託していることも理由の一つ。課題には気づいているものの、WAN再構築に必要な技術やサービスに対する知識や理解が乏しいこともあって、主体的にWANを設計できないことが少なくない。

 とはいえ、なんとかしたいという意識は多くの企業にある。筆者は仕事柄、ユーザー企業の情報システム部門の方々と話すことが多いが、ほとんどの企業で、企業ネットワークの担当者はWANに関して広域災害への耐性向上を課題として挙げる。そこで今回は、広域災害に強いWANを構築するプロジェクトを想定し、ベンダーに提案を募った。

 ここでWAN構築のポイントとして、今回のプロジェクトでは耐障害性の向上に加えて、ビジネス推進の障壁にならない構成とすることを意識した。WANとして利用する通信サービスの選び方などによっては、ビジネス戦略に支障が生じることがあるからだ。

 例えば、グローバル展開や企業買収、拠点展開を積極的に進めている企業では、新しい拠点にも短期間でネットワークを設置したいと考えるだろう。ところが、ブロードバンド回線を新たに引き込む場合、1カ月以上がかかることは珍しくない。また、建設業など、拠点を展開・撤去する頻度が高い企業なら、最低契約期間が1年以上という通信回線はできるだけ避けたいはずだ。WANを構築する場合は、こうした観点も重要になる。

東日本での多店舗ネットを想定

 提案依頼書(RFP)で想定したのは、東北地方で多数の店舗を展開している中堅スーパーマーケット・チェーンABC社。東日本大震災の際に、ネットワーク障害が発生し、このために複数の店舗が長期にわたって営業停止を余儀なくされた。この間に、多くの顧客は、営業を続けていた競合店を利用するようになった。その後、ネットワークやシステムが復旧し、営業を再開したものの、客足が戻りきらず、売上高は震災前の8割程度にとどまっている。

 この反省から、今後同様の広域災害や障害が発生しても業務停止に陥ることのないよう、国内のWAN再構築プロジェクトに踏み切った(表1)。

表1●プロジェクトの内容
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 ABC社の現在のネットワーク構成は図1の通り。図1右は、WAN接続の対象とする拠点である。WANを構成する拠点は本社(1拠点)、店舗(25拠点)、物流拠点(5拠点)の3種類。店舗のうち5カ所は、ブロードバンド回線を敷設できないへき地にある。再構築プロジェクトでは、これらの拠点すべてについて、ネットワークを冗長化する。WANのバックボーンについても、災害時を想定して可用性の高い構成とすることが条件である。

図1●本プロジェクトで提案を求めるシステムと提案対象範囲
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ポイントはココ!
■単一障害点をなくすと同時に、ビジネス推進の妨げにならないWANの構成を考える
■頑丈、低コストで陳腐化しにくいアーキテクチャーに。具体的すぎるイメージの提示は逆効果

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