ハードウエア、ソフトウエアに加えて、システム基盤の構築/運用ノウハウまでも1社のベンダーがまとめて提供する「垂直統合システム」が注目を集めている。短期間でシステムをカットオーバーできるほか、システム運用コストも大幅に削減できることがメリットだ。そこでITpro Activeでは、「『垂直統合システム』は使えるか~システム構築・運用の新たな選択肢を探る~」と題したセミナーを、2013年3月14日に東京で開催した。

 セミナーでは、キーノートとして日経BP社 日経コンピュータ編集プロデューサーの星野 友彦氏が垂直統合システムのインパクトについて解説したほか、日本IBMとSCSKが垂直統合システム「PureSystems」について、JIECがPureSystemsの事例について解説。クロージングパネルでは、垂直統合システムの意義や有益性について議論を交わした。

キーノート
「SIと運用が消える」のインパクト

 キーノートでは、日経コンピュータ編集プロデューサーの星野友彦氏が、情報システムの未来像を示し、ユーザーにとっての垂直統合システムの意味を明らかにした。大きく「日本企業を取り巻く環境」「垂直統合システムとクラウドの意味」「これからのシステム部門のあり方」---について解説した。

日経BP社
日経コンピュータ
編集プロデューサー
星野 友彦氏

 講演の冒頭で、星野氏は日本企業を取り巻く環境を説明。まず、人口減少によって国内市場が縮小することを示した。実際、人口のピークは2004年12月であり(1億2784万人)、それ以後はずっと減り続けている。2100年には4286万人にまで減る予定で、この数字は1898年頃と同じだ。

 国内市場が縮小することによって、企業は海外に進出するより他なくなる。こうして生産のグローバル化が進む。「競争力のある企業ほど、日本の将来を悲観する企業ほど、海外生産を加速している。これが現状だ」(星野氏)。

 資本のグローバル化も進んでいる。日本企業による海外企業の買収は、2012年の1年間で約500件(6~7兆円弱)。「これは、2008年よりも若干低い金額だが、ドル建てで換算すると2012年は2008年の1.5倍になる」(同)。

 その一方で、星野氏はOECD加盟国34カ国中19位と、日本の労働生産性が非常に低いことを指摘。そのうえで、「欧米はこの10年の間、ITを使って生産性を向上させてきたが、日本はこの10年の間、ほとんど生産性が変わっていない。ITによる生産性向上は待ったなしだ」と、警笛を鳴らした。

ITインフラが、ビジネスのスピードに追いつかない

 星野氏は、「ITとの向き合い方を根本的に考え直す時期にきている」と語る。1990年代まではITは合理化/省力化の手段であり、「あれば便利」な存在だった。手作業を自動化する狙いがあり、用途は非常に明確だった。システム開発は、2~3年をかけてしっかりと要件を固めていても問題なかった。

 ところが、2000年前後にインターネットが急速に普及したあたりから、ITは経営に有効な道具として捉えられるようになった。「ITをうまく使えば競争に勝てるのではないか、という話が出てきた」(星野氏)。

 そして2010年以降は、ITは不可欠、つまり、経営とITを切り離せない状況になったと、星野氏は強調する。「ITがなければ、新しいビジネスを立ち上げることさえできない」(同)。しかも、ビジネスを立ち上げるスピードが以前よりも早くなってきた。半年から1年をかけて要件を固めるといったペースはもう許されない。数カ月から数週間で稼働させなければならない。そこで、小さく始めて、走りながら考える「リーンスタートアップ」というコンセプトが重要になってきた、と星野氏は指摘する。

 ところが「現状のITインフラは、すばやくビジネスを立ち上げるリーンスタートアップのサイクルに対応できていない」(星野氏)。本来ならアプリケーションの開発に集中したいのに、OS/ミドルウエアの環境構築やシステム運用などに時間と手間がかかっているからだ。

 実際、システム投資のかなりの部分が、既存システムの運用保守に回されている。星野氏は、2002年10月7日号の『日経コンピュータ』の特集「不良IT資産を追い出せ」を示しながら、2002年当時のランニングコストと新規システム向け投資の比率が7対3だったことを紹介。当時から11年がたったが、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査では、2009年度から2012年度の運用費の割合はいずれも6割弱で、2002年当時とほとんど変わっていないという。

メインフレームとオープンシステムの良さが両立

 この状況を打破する潮流として、クラウドと垂直統合システムが登場した、と星野氏は語る。

 クラウドの意義は、所有モデルから利用モデルへの移行である。これは大きなパラダイムシフトだ。一方、垂直統合システムの意義は、メインフレームとオープンシステムの良いとこ取りという。

 メインフレームは、メーカーが動作保証するが、ユーザーを囲い込み、価格も高かった。「以前は、ユーザーがメインフレームのメーカーを変えることが一大ニュースになる時代だった」(星野氏)。一方、オープンシステムはベストオブブリードであり、最も良い製品を自由に組み合わせるスタイルだった。この結果、複雑さが増して運用負荷が増え、結果的にはTCO(総所有コスト)が大きく膨らんだ。

 これに対して垂直統合システムは、オープンシステムのように汎用品を利用しながら、メーカーが動作を保証する。つまり、メインフレームとオープンシステムの良さが両立している。

ようやくビジネスに集中できるようになった

 クラウドと垂直統合の目指すゴールは同じだ、と星野氏は言う。どちらも、システムがインテグレーション済みなので、すぐに利用できる。「ようやくビジネスが求めるスピードでインフラを構築できるようになった」(星野氏)。

 さらに、運用ノウハウも組み込まれているので、「情報システム部門はシステムや設備の運用管理やシステム監視から開放され、ようやくビジネスに集中できるようになった」(同)。

 システム部門の役割も根本的にも変わるだろう、と星野氏は指摘する。星野氏は、IPA(情報処理推進機構)の「今後のIT人材」スキルセット検討委員会のメンバーの一人だが、この委員会の議論の結論も「今後は、ビジネスクリエーションが求められるようになる」というものだったという。

 もちろん、ビジネスにおけるイノベーションの創出は難しいが、「日本の潜在能力は実は高い」と、星野氏は強調する。世界経済フォーラムの国際競争力ランキングで日本の総合順位は10位だが、革新性と洗練性要因(Innovation and sophistication factors)は2位、ビジネスの洗練度(Business sophistication)は1位。「決して悲観する結果ではない。日本の客は、よく言えば洗練されている。悪く言えば口うるさい。この市場で鍛え上げられた商品は、世界でも通用する」と述べて、星野氏は講演を締め括った。

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