部分的にクラウドを導入するというユーザー企業も、最近は導入条件を明確にし、その条件に合うシステムに関しては、クラウドを積極的に活用する姿勢を強めている。各社はどのような条件を設けているのか。その選択基準を見ていこう。
リスクが把握できれば使う
パブリッククラウドであっても、サービス事業者のデータセンター(DC)をチェックし、システムリスクを把握したい。それができるクラウドなら利用する─―。
荘内銀行と北都銀行の持ち株会社であるフィデアホールディングス(HD)、東京海上HD、パナソニックの3社は、「リスクの把握」を条件に挙げる。
実は各社とも、パブリッククラウドの導入自体は、非常に積極的だ。フィデアHDは2012年11月に、クラウドへの全面移行に備えて、IT部門を「IT企画部」と「システムリスクグループ」に再編し、運用部門を無くしたほどだ。「ITの高度化によって、システムを自前で構築、維持すること自体が経営リスクになった。クラウドやアウトソーシングの活用は不可欠だ。IT部門の仕事は、システムの企画と、利用する外部サービスのリスクチェックに変わった」。フィデアHDのCTO(IT・システム責任者)である吉本和彦副社長(写真4)はこう語る。
しかし、「金融機関として、海外DCの使用は許されない」(吉本副社長)との考えから、活用するクラウドは、「Salesforce CRM」と、NTTデータの勘定系クラウド「BeSTAcloud」だけだ。導入に当たってはDCを直接視察するという条件も課した。
東京海上HDの澁谷裕以執行役員IT企画部長(写真5)は、「DCの監査は絶対条件。『クラウドだからDCは見せられない』というスタンスは、保険業として受け入れられない」と話す。現時点では、DC監査を受け入れたセールスフォース・ドットコムだけを使用している。
障害発生時の情報提供は必須
2010年5月にパブリッククラウドの大規模導入を開始したパナソニックは、クラウドを使い始めてから「条件」を見直した1社だ。「クラウドを2年以上利用する中で、様々な教訓を得た」。同社のコーポレート情報システム社クラウド・IT基盤GCOの中西秀明氏(写真6)はこう振り返る。
パナソニックが重視しているのは、「障害発生時に情報が自動的に提供されるかどうか」だ。「パブリッククラウドでは、当社専任の担当者をアサインして貰うのは不可能だ。加えて、障害が発生した際に、人を介して情報が伝えられる体制だと、人がボトルネックになり、障害情報が当社にうまく伝わらない。クラウド事業者には、人を介さず、情報を自動的に当社に伝える体制作りを求めている」(中西氏)という。