複数のクラウドを使い分けるマルチクラウドを実現しようとすると、新たな問題が生じる。管理が繁雑になる、複数を使い分けてもクラウド間で構成情報を引き継げない、といった問題である。それらの問題を解消するために生まれたのがマルチクラウド管理ツールだ。詳しく見てみよう。
「米国では複数のクラウドをどのように使い分け、管理していくかが問題になっている。日本でも1、2年もしないうちに同じ状況になっているはずだ」。ライトスケール・ジャパンの高橋正裕氏(セールス・エンジニア)のほか、米国のクラウドサービスに詳しいエンジニアは口々にこう言う。
複数クラウドを使い分けるケースで多いのは、オンプレミスにあるプライベートクラウドで基幹システムを構築・運用しつつ、一部の業務システムにパブリッククラウドを使っている場合である。そのほか、特性が異なる複数のパブリッククラウドを、状況によって使い分けて利用するケースも当てはまる。
複数クラウドを使う「マルチクラウド」を実現しようとすると、「構築や運用を担当するエンジニアは大きく二つの問題に直面することになる」(高橋氏)という(図1)。
一つめはクラウドサービスごとに管理画面がバラバラになってしまうことだ。画面がバラバラになると、稼働している仮想サーバーの状況を一覧表示できないだけではない。サービスが異なることにより、仮想サーバーの起動や監視、停止などの操作や設定の仕方も変わる。このため、利用しているクラウドサービスが増えると管理上の煩雑さが増し、操作ミスなどの間違いも引き起こしやすくなる。
二つめは、別のクラウドに仮想サーバーを移行しようとした際、任意のクラウド間で構成情報を引き継げないことである。クラウドでは、仮想サーバーの構成情報を保存する仕組みを備えていることが多いが、「基本的には別のクラウドに適用できない」(マルチクラウド管理ツールの販売を手掛けるマキシマイズ 代表取締役 渡邊 哲氏)。このため、別クラウドに仮想サーバーを移行する際、設定作業を一からやり直さなければならないことがある。例えばAmazon EC2ではAMI(Amazon Machine Image)という形式で構成情報を保存し、これを使えば簡単に各種設定済みの仮想サーバーを複製できる。移行可能なクラウドも一部あるが、基本的にはAMIをほかのクラウドに適用できない。これはユーザーからすれば「クラウドサービスへのロックイン(特定企業のサービスへ依存してしまうこと)になりかねない」(渡邊氏)。