この連載では、市場で話題の製品・サービスとその主要ベンダーを取り上げて、「ユーザー企業は、ベンダーとチャネルをどう見極めるべきか?」という観点から解説している。

 今回はトレンドマイクロを取り上げる。ネットワークを利用するITシステムのセキュリティ確保には、ウイルス対策のパッケージソフトやファイアウォールをはじめとするアプライアンス機器の存在が欠かせない。

 しかし、その歴史はわずか15年ほどだ。企業が閉じたLANでシステムを運用していた初期のネットワークでは、セキュリティを意識する必要はほとんどなかった。それがインターネットで外部との接続が当たり前になっている今では、セキュリティを意識しないネットワークはあり得ない。

 今回取り上げるトレンドマイクロは、こうした状況でウイルス対策ソフト「ウイルスバスター」によって、中堅・中小企業で圧倒的なシェアを獲得している。コンシューマーのみでなくB2B(企業間取引)でも確固たる地位を築いているトレンドマイクロの強さと、ユーザーに支持される要因を分析したい。

正攻法のチャネル販売でB2Bを攻略

 弊社ノークリサーチは1998年に設立されたが、その当時、日本のインターネットは普及の緒についたばかり。企業のホームページ開設が新聞に紹介されるような時期だった。

 当然、インターネットを通じてやりとりされるメールやWeb検索にも、現在のようなセキュリティの意識は薄い状態だった。そうした状況で、コンピュータウイルスの被害が発生したことで、ウイルス対策ソフトの重要性がにわかに注目されるようになった。筆者も当時、意図しないいたずらメールの送り手になってしまい、ウイルス対策ソフトをクライアントPCに入れなくてはならなくなった。その折に探して、たどり着いたのがトレンドマイクロの「ウイルスバスター」だった。

 市場の黎明期において、トレンドマイクロはどうやって日本のB2B市場で確固たる地位を築いたのか。ビジネス市場を攻略する下地として、まずコンシューマー向けのパソコンソフトで大きなシェアを確保したことが、その大きな要素となっている。

 家庭で使い慣れたウイルス対策ソフトを企業のクライアントPCでも利用することに、抵抗は少ない。むしろ、違う製品を使うこと方に積極的な理由が必要になる。

 さらに、トレンドマイクロはB2B市場向けの販売政策をそれまでとは思い切って変更し、間接販売を主体とした。しかも、これを初期の段階で実施したことが奏功した。

 企業向けのウイルス対策ソフトには、メーカーの直販よりも間接販売が向いている。なぜなら、企業で利用するクライアントPCは常に使える状態にして置くことが求められる。このため、クライアントPCで発生する様々なトラブルが、ウイルス対策ソフトのせいなのか、あるいはネットワーク上のハードウエアや回線の問題なのかなどインシデント発生に際してサポートが必要になることが多い。これに対応するには、販売店やSI企業の細かなユーザーへのサポートが必要になるからだ。

トレンドマイクロ企業概要
設立 :1989年10月24日
資本金:183億8,600万円(2012年6月末)
社員数:5017名(2012年6月末)
売上高:963億9200万円(2011年12月末)
(日本の売上高は約460億円で全体の47.7%)

表1●地域別の売上状況(単位:百万円)
  2009年12月期 2010年12月期 2011年12月期
日本 39,740 42,325 46,070
北米地域 25,339 22,726 20,452
欧州地域 20,174 18,258 17,147
アジア・パシフィック地域 8,377 9,457 10,329
中南米地域 2,716 2,623 2,391
表2●ワールドワイドの業績推移(連結、単位:百万円)
  2009年12月期 2010年12月期 2011年12月期
売上高 96,346 95,391 96,392
営業利益 30,137 23,752 26,364
経常利益 31,714 23,835 28,690
従業員数 4,434 4,846 4,942
1人当たり売上高 21.7 19.7 19.5
1人当たり営業利益 6.8 4.9 5.3
1人当たり経常利益 7.2 4.9 5.8
表3●日本国内拠点(4拠点)
東京本社 東京都渋谷区代々木2-1-1 新宿マインズタワー
大阪営業所 大阪府大阪市淀川区宮原3-4-30 ニッセイ新大阪ビル13階
名古屋営業所 愛知県名古屋市中区丸の内3-22-24 名古屋桜通ビル7階
福岡営業所 福岡県福岡市博多区博多駅前2-3-7 サンエフビル7階

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