O2Oは新たな市場を切り開き、成長企業を生み出す潜在力を秘めている。では、企業はどのような観点でO2Oに取り組むべきなのか。先進的な事例を見ていこう。

 「こちらが来てほしい時間に、特定の店舗への来店を促すことは、紙のクーポンでは難しい。スマホを使えば、これらの難点を解消できる」。こう語るのは、カラオケチェーン大手シダックスの水野博之エスアイテックス事業本部長だ。

 シダックスは、O2Oを集客向上と売り上げ増大につなげている好例だ。スマホアプリを活用することで、月間1000万円超の増収効果があるという。

 その秘密は、シダックスがスマホ向けに配信する「時限クーポン」にある(図1)。利用者がアプリを起動すると、スマホのGPS機能を利用して近隣の店舗が一覧表示される。そこから行きたい店を選べば、クーポンを入手できる。だがクーポンの多くは、18時から24時までしか使えない。

図1●シダックスが配信する「時限クーポン」の仕組み
紙のクーポンとは異なり、利用できる時間帯と枚数を店舗ごとに管理できる
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 狙いは、「2次会需要」を取り込むことにある。カラオケ店では、昼間よりも夜間の方が客単価が高くなる。単にカラオケを楽しむだけではなく、食事やアルコールの注文があるからだ。

街中にいる顧客を店舗に誘導

 紙のクーポンでは、そうした需要を取り込みにくい。スマホの普及により、1次会の直後に付近の店舗を検索し、その場で行き先を決める行動パターンが増えたからだ。「そうした顧客に対し、リアルタイムに的確な情報を提供できれば、来店の可能性を確実に高められる」(水野氏)。

 スマホ経由でクーポンを入手した顧客の、約3割が実際に来店するという。シダックスは紙とメールマガジンを使ったクーポン配信も行っているが、使える時間帯を限定していない。

 スマホ向けクーポンの内容は、店舗ごとに変更できる。予約が少ない日には割引率を高めたり、多い日は逆に、配信枚数を絞ったりできる利点もある。さらに、顧客が今いる場所から店舗までの道順を案内できるのも、スマホアプリならではの特徴だ。オンラインで情報を提供し、オフラインの店舗へ誘導する。文字通りのO2Oを実現している。