東日本大震災以降、多くの企業が、システム障害や災害などからデータを保護する「データ保全」の重要性を認識するようになった。「データ保全の方法を改良したい」「効率的なデータ保全ソリューションを導入したい」と考えているユーザー企業も多いのではないだろうか。

 そこでITpro Activeでは、ITPro Active製品選択支援セミナー「データ保全~必要かつ十分なデータ保全対策とは~」を、8月28日に東京で開催した。この分野に詳しいアイ・ティ・アールのシニア・アナリスト甲元 宏明氏が、データ保全のための製品/サービスの最新動向と選択のポイントについて解説したほか、主要ベンダーが自社のデータ保全ソリューションの特徴を紹介。最後に、『日経コンピュータ』誌の中田記者が、「クラウドのトラブルからシステムを守る5つの方法」を解説した。

基調講演
製品/サービスの最新動向と選択のポイント

 データ保全に取り組む企業が今、取るべきアプローチは何か。基調講演では、国内の先端ユーザー企業の動向に詳しいアイ・ティ・アールのシニア・アナリスト甲元 宏明氏が、データ保全のための技術/製品の動向やデータ保全プロジェクトの進め方について、解説した。

アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト
甲元 宏明氏

 ユーザー企業の間で、災害や障害時におけるBCP対策としての「データ保全」に対する注目度が高まっている。訴訟対策やコンプライアンス遵守の観点でもデータ保全は、非常に重要である。

 ところが、アイ・ティ・アールが556社を対象に調査した結果では、サーバー仮想化には積極的に投資を進めているが、ストレージやデータセキュリティなどのデータ保全関係への投資はまだ消極的だという。「背景には、データ保全の責任者が不明確という現状がある。やはり、データ保全はIT部門の担当者が責任を持って推進すべきだ」と甲元氏は指摘する。

 IT部門主導でデータ保全を推進する際は、ビジネス影響度分析(BIA)によるきちんとしたリスク評価を実施することが望ましい、と甲元氏は語る。BIAは、BCP関連IT投資の価値を経営トップや社内関係者に理解させるために最も有効な方法の一つだからである。

 さらに甲元氏は、「データ保全を推進するためには、データの種類に応じたデータ保管方法などを定める『データ管理フレームワーク』の構想化が急務」と語る。そのためには、データ作成から削除までのライフサイクルをデータ価値に応じて段階的かつ最適な手法で管理する「ILM(Information Lifecycle Management)」の考え方をリファレンスモデルにするのがよいという。また、データ管理フレームワークの構想化に当たっては、「オンラインストレージやバックアップだけではなく、アーカイブも同時に検討すべき」と、甲元氏は指摘する。

中堅・中小企業のニーズを満たすクラウドベースのDR

 次いで甲元氏は、「仮想テープライブラリー」「ストレージ仮想化」「ストレージ自動階層化」「重複排除」「ストレージサービス」など、データ保全を実現するための様々なテクノロジーを紹介。特にストレージについては、「主要ストレージベンダーによる買収の動きが活発である」とした。「買収の狙いは、垂直統合によるデータ保全関係の自社ソリューションの充実。ベンダーロックインを嫌うユーザーも多いが、全体としてはデータ保全ソリューションの拡充が進み、ユーザー企業にとっては良い方向に向かっている」という。

 さらに、新しいソリューションとして、クラウドベースのディザスタリカバリ(DR)を紹介した。「数時間~半日のRTP(Recovery Time Objective、目標復旧時間)を要求する業務(中程度のミッションクリティカル)や企業(中堅・中小企業)は多い。従来は、このレベルのDRを実現するソリューションは多くはなかった。クラウドベースのDRは、このニーズに応えられる」(甲元氏)。

データ保全ソリューションは全社で共通化すべき

 甲元氏は最後に、「サステナブルITアーキテクチャ」の重要性を強調した。サステナブル(持続性の高い)ITアーキテクチャとは、全社的な共通機能を個々のアプリケーションから独立させて「共通サービス」として提供する考え方だ。

 共通サービスは、テクノロジ/製品のライフサイクル終了後に、次世代のテクノロジ/製品に抜き差しすることで、システムライフサイクルの長期化とトータルコストの削減に寄与する。甲元によれば、バックアップやストレージなどのデータ保全システムも、全社共通サービスとして、個別のITソリューションとは独立した観点で検討すべきという。

 甲元氏は「データ保全のための製品やサービスを選択する際も、既存システムと密な連携を行うソリューションを選択するべきではない。全社で共通サービス化が可能なソリューションを選択するべき」と強調して、講演を締め括った。

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