ここからは、SaaSを導入した事例を三つ紹介する。最初のノーリツは、機能面の評価やセキュリティ問題の解消などに力を入れた。また導入直後にネットワークのトラブルが発生している。次のオットージャパンは、SaaSへの移行に合わせてWANサービスを見直した。最後のリライブは、セキュリティ機能を提供するSaaSを導入することで、システム担当者の負担を減らしつつ、クライアントの一括管理を可能にした。いずれもこれから導入を行う企業にとって参考になる。

case1:ノーリツ
〈グループウエア〉
5年後を見据えた選択、サービスの継続性も考慮

 メール機能をクラウドに移行する場合、注意すべき点が二つある。(1)メールに個人情報や企業機密に関わる情報が含まれるため、よくいわれるセキュリティ面などサービスの信頼性をどう評価してカバーするのか、(2)メール機能を使えなくなると業務に与える影響が大きいため、移行してすぐに従業員が使えるかどうか──の2点だ。

 給湯器や浴室などの住宅設備メーカーであるノーリツは、既存のメール環境の不満を解消するため、オンプレミス環境のグループウエアからグーグルのSaaS、Google Appsに移行した。移行作業は、(1)と(2)の注意点を考慮して慎重に進めたが、それでも導入直後に思いがけないネットワーク関連のトラブルに遭遇してしまう。

ユーザーの不満が多かった既存環境

 ノーリツがGoogle Appsに移行したきっかけは、グループウエアを稼働していたサーバー機の更新時期が2012年3月に迫っていたことだった(図2-1)。

図2-1●ノーリツがクラウド移行を検討したきっかけ
発端は、グループウエアを稼働させていたサーバー機の更新時期が2012年3月末と迫っていたこと。その対応を検討し始めたころ、たまたま社内で実施したアンケートで、従業員がグループウエアに対して強い不満を持っていることが顕在化した。
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IT推進部 情報管理グループ グループリーダー 長尾 謙一郎 氏(右) 副主事 小川 英子 氏(左)
IT推進部 情報管理グループ
グループリーダー
長尾 謙一郎 氏(右)
副主事
小川 英子 氏(左)

 サーバー機を入れ替えるには、見積もりで1億5000万円以上かかることがわかっていた。Google Appsへの移行を担当した長尾 謙一郎(ながお けんいちろう)氏は、グループウエアのシステムをどう刷新したらよいか、2009年から検討を始めた。

 ちょうどその頃に、別の目的で実施した社内アンケートでグループウエアに対するユーザーの不満を目の当たりにした。そこには、グループウエアに対して、有効回答数の59%が「メールボックスの容量」、54%が「ソフトの使い勝手」、24%が「メールの検索機能」に不満があると出ていた。

 メール機能ではこのほか、海外の企業とやり取りする従業員から、文字化けを指摘されていた。

陳腐化をどう防ぐのか

 長尾氏がグループウエアのシステム刷新で憂慮していたのが、オンプレミス環境で新しいシステムを構築しても、5年後にまた同じような不満が出るのではないかという点だ。だから、クラウドに移行しようと決めた。

 オンプレミスのソフトは新バージョンが登場しても、バージョンアップのコストや手間が負担だ。クラウドならば、バージョンアップという考えはなく、提供事業者が勝手に更新していく。

 「情報系システムであれば、提供事業者が勝手に更新して使い勝手が変わってしまっても、業務への影響は小さい。逆にユーザーがサービスに合わせるだけで最新のものを使っていけるというメリットは大きい」(長尾氏)

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