プロローグで触れたように、2011年時点で企業のクラウド導入で最も進んでいたのは、SaaSだった。IaaSとPaaSの導入率を足し合わせてもSaaSには及ばない。Part2で紹介する事例もSaaSが中心になっている。
では、すべてのシステムがSaaSに移行できるのか。Part1では、まずクラウドの種類を整理し、どうしてSaaSの導入率がIaaS/PaaSに比べて高いのかを明らかにする。そして何のシステムならクラウドへの移行が向いているのかや、ネットワークなどの移行時の注意点をまとめる。
提供するリソースで分類
クラウドは、大きく二つに分けられる。パブリッククラウドとプライベートクラウドだ。パブリッククラウドは、インターネット越しにコンピュータリソースを提供するシステム。プライベートクラウドは、オンプレミス環境でパブリッククラウドのような使い勝手を提供するシステムだ。本特集では、多くの企業が利用しやすいパブリッククラウドに絞って説明する。
パブリッククラウドは、提供されるコンピュータリソースによって、「SaaS」と「IaaS/PaaS」の2種類に大別できる(図1-1)。SaaSとは、データセンター上にクラウド提供事業者が用意したグループウエアやセキュリティ機能、顧客管理/営業支援などを行うCRM機能などをユーザーに提供するサービスのことだ。米グーグルのGoogle Apps(グーグル アップス)や米マイクロソフトのOffice 365(オフィス サンロクゴ)、米セールスフォースのSalesforce(セールスフォース) CRMなどがある。
もう一方のIaaS/PaaSは、仮想マシンやソフトウエアが稼働する環境をユーザーに提供する。SaaSと違い、ユーザーがIaaS/PaaSの上で動作するシステムやソフトウエアを用意しなければならず、その保守作業も必要になる。米アマゾン・ウェブ・サービシズのAmazon EC2(アマゾン イーシーツー)やニフティのニフティクラウド、マイクロソフトのWindows Azure(ウィンドウズ アジュール)が有名だ。
IaaS/PaaSよりSaaSを選ぶ
オンプレミスのシステムをクラウドに移行する場合の大原則は、「SaaSで実現できるものはSaaSを、そうでないものはIaaS/PaaSを検討する」──だ。
その理由は、クラウドの最大のメリットが「保守作業の軽減」だからだ。オンプレミスのシステムをIaaS/PaaSに移行しても、ハードウエアの保守作業から解放されるだけだ。システムによっては、クラウドに移行すると社内ネットワークと接続するWANのケアが必要になり、かえって作業が増える場合も考えられる。SaaSとPaaSの両サービスを提供するマイクロソフトは、「あるシステムがSaaSとPaaSのどちらにも移行できる場合、PaaSを選ぶのはナンセンス」(日本マイクロソフトのサーバープラットフォームビジネス本部クラウド&アプリケーションプラットフォーム製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの鈴木 祐巳(すずき まさみ)氏)と断言する。