この連載では、市場で話題の製品・サービスとその主要ベンダーを取り上げて、「ユーザー企業は、ベンダーとチャネルをどう見極めるべきか?」という観点から解説している。

 今回はセールスフォース・ドットコムを取り上げる。前回のオービックもそうであったように、ブランドの認知度が高い割には、同社の事業内容が正しく理解されていないことは多いかもしれない。CRM(顧客管理システム)のSaaSベンダーとしてのイメージが強い同社であるが、一方ではパブリッククラウドにおいてグローバル展開する最有力ベンダーとして、グーグルやアマゾンと並ぶ存在である。

 今回は特に、同社の新たな戦略骨子であり、次世代のキーワードとして注目されている、SNSとエンタープライズを融合させた“ソーシャルエンタープライズ”を中心に紹介する。

低価格・短納期のSaaSでCRMを提供し成功を収める

 日本市場において、セールスフォース・ドットコムは早くからクラウド専業ベンダーとして名を馳せてきた。いわゆる「CRM=セールスフォース・ドットコム」のブランドは日本でも着実に定着している。同社はSaaSのアプリケーション提供で成功を収めた数少ないベンダーであり、その代表的な存在である。

 CRM製品の分野には多くのベンダーが参入しているが、抜きん出て市場を独占しているベンダーはない。多くのベンダー、製品、サービスがシェアを分け合っている状態だ。参考までにノークリサーチが毎年実施している中堅・中小企業での導入企業数シェアで見てみると、最新の2011年の調査結果ではセールスフォース・ドットコムのSaaS製品である「SalesforceCRM」がシェアトップを獲得している。

図1●2011年のCRM導入済み製品/サービスシェア
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 セールスフォース・ドットコム(Salesforce.com,Inc)は、1999年3月に米国サンフランシスコで設立された。日本法人である株式会社セールスフォース・ドットコムの設立は2000年4月である。

 セールスフォース・ドットコムは「所有から利用へ」のキーワードに代表されるクラウドコンピューティングのパイオニアである。同社はセールストークにおいて「あなたの会社では海外へ出張するときに、自家用ジェットでいきますか? オフィスはすべて自社ビルですか?」というたとえ話で、ITを「所有する」のではなく「利用する」効用を説いてきた。このフレーズは2005年以降にASP/SaaSの市場が本格的に立ち上がってからは、聞く者にこれまでとは違う響きを与えるようになった。

 日本国内におけるCRMの位置付けは、企業戦略の中心に据えて取り組むべき大掛かりなシステムである。導入費用がかさみ、効果が表れるまでには一定の期間を必要とするため、対象顧客は大企業が中心となっている。導入後すぐに効果の見えることを求める中堅・中小企業では、CRMはあまり浸透していない。

 しかしセールスフォース・ドットコムは、CRMを低価格かつ短納期のSaaSモデルとして提供した。このことが中堅・中小企業に評価された。

 とはいえ、CRMは現状でもまだ敷居が高いアプリケーションである。その理由のひとつは社員による継続的なデータ入力が欠かせない点である。データの徹底した蓄積と日々のメンテナンスが、CRMにとって何より重要であり大前提となる。CRM成功のカギは結局、地道なデータ入力作業の重要性を導入企業が理解し、それを継続できるかどうかにかかっている。このプロセスを経て初めて、集積した情報を営業活動に活かせるようになる。

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