独SAPがインメモリーデータベース製品「SAP HANA」を発表して2年が経過した。2010年5月の発表当時はHANAという名称もなく、分析アプライアンスを市場に投入するということだけが発表された。同年11月にようやく「High-Performance Analytic Appliance(HANA)」という製品名が発表され、日本の顧客5~6社を含む限定出荷が始まった。本格的に一般出荷が開始されたのは2011年6月のことだ。

 その後SAPでは、HANAの名称をHigh-Performance Analytic Applianceの略ではなく、単独の固有名詞HANAへと変更している。それは、HANAが単なる分析のための製品ではなくなったことを意味する。SAPはいま、HANAを同社の中核製品と位置づけ、分析という限られた分野だけでなく、さまざまな製品の基盤として展開しようとしているのだ。いわばHANAは、SAPのビジネスを方向転換させた製品といえる。

 これほどまでに重要な役割を持つHANAとは一体何なのか。その誕生秘話や今後の方向性を、SAPジャパン リアルタイムコンピューティング事業本部長 兼 Co-Innovation Lab Tokyo担当の馬場渉氏に聞いた。

(聞き手は、藤本 京子=ITpro


HANAはどういった経緯で開発されたのか。

SAPジャパン リアルタイムコンピューティング事業本部長 兼 Co-Innovation Lab Tokyo担当 馬場 渉氏
SAPジャパン リアルタイムコンピューティング事業本部長 兼 Co-Innovation Lab Tokyo担当 馬場 渉氏

 実はHANAの本来の名称は、「Hasso's New Architecture」だった。HassoというのはSAPの創業者の名前で、2001年までCEO(最高経営責任者)を務めていた人物だ。その後Hassoは研究者となり、大学の研究で次世代データベースの開発プロジェクトを手がけた。そのプロジェクトの名称がHasso's New Architectureだったのだ。

 このプロジェクトは、これまで30年間続いたリレーショナルデータベース(RDBMS)と50年間続いたハードディスクの今後に疑問を持ち、全く新しいデータベース管理システムの概念を作ろうというものだった。つまり、データベース産業の世代交代を狙っていた。

 2008年頃、SAPは大学から「プロジェクトが製品化できそうだ」という提案を受けた。そこでSAPは、大学のプロジェクトを引き継ぎ、製品化に取り組んだ。そして2010年、数あるデータベース市場の中でも最も高速性が生きる分野として、分析市場にHANAを投入した。その後2年かけて徐々に用途を拡大させており、いまようやくプロジェクトの原点に近づきつつある。

SAPにとってHANAはどのような位置づけなのか。

 SAPのビジネス領域は、アプリケーション、アナリティクス、モバイル、クラウド、データベースの5つだ。2010年発表当時のHANAの位置づけは、High-Performance Analytic Applianceという名称が示すとおり、アナリティクス事業のひとつだった。それが2011年には、分析のみならずデータベース市場でも汎用的にHANAが使えるようになり、事業領域がデータベースにも広がった。

 その時点でわれわれは、HANAをこれまでのように特定分野に向けた製品とするのか、もしくはあらゆるアプリケーションの基盤とするのかを検討し、後者を選んだ。そこで2012年は、すべての事業部がHANA対応を進めている。つまりHANAは、SAPが企業としてリニューアルする“触媒”となっているのだ。

 例えば、アプリケーション事業の中で代表的なERPは、現在「Oracle Database」や「SQL Server」で稼働しているものがほとんどだが、今後はHANA上でも稼働するようになる。2012年11月末もしくは12月にはHANAの新バージョンとなるSP5が登場予定で、このバージョンでERPとHANAの連携が実現する予定だ。

 2013年前半には、ERP以外のアプリケーションでもHANA対応を進める。2012年2月に買収が完了したSuccessFactorsのSaaS型タレントマネジメントシステムも、現在のデータベースをHANAに入れ替え、今秋には稼働する予定だ。

 HANAの事業領域の拡張により、われわれのデータベース事業であるSybaseの戦略も変わる。通常データベース市場では、これまで30年間続いたRDBMSが主流で、インメモリーデータベースのような新興技術は“亜流”と考えられている。そのため、今のデータベースを拡張する形で新技術を取り入れることが多い。しかし、SAPではインメモリーデータベースが“主流”になると考えているため、Sybaseのデータベース製品では、HANAを心臓部分に位置づけ、HANAでできない部分を従来の技術で補完する方式をとる。

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