「想定する」とは、考える範囲と考えない範囲を決め、境界を設定することである。(中略)いったん想定が行われると、どのような制約の下にその境界が作られたのかが消えてしまう。ことが起こった後で見えるのは、この想定と想定外との境界だけである─。

 「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」は2011年12月26日、中間報告を公表した。上に示したのはその抜粋である。東日本大震災とそれに伴う原発事故では「想定外」とする声が多かった。中間報告はこの点について、「今回の事故は、想定外の事柄にどのように対応すべきかについて、重要な教訓を示している」と指摘する。

BCP、四つの新常識

 広域にわたる地震や大きな津波、計画停電、交通インフラのマヒ、原発事故。1年前の震災では、東京電力に限らず多くの企業が、まさに想定外の事態に直面した。BCP(事業継続計画)を策定していた企業も例外ではない。BCPでの想定を超えた事態が発生し、災害対策が機能しなかった企業も少なくなかった(図1)。

図1●東日本大震災で明らかになった「想定外」の被害やBCP(事業継続計画)の不備
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 なぜBCPは機能しなかったのか。これほど深刻な事態を想定していなかったというのが大きな理由だが、それだけではなさそうだ。富士通総研の伊藤毅BCM事業部長は、「コストの制約で『対応できるのはここまで』とBCPの想定範囲を限定していた面は否定できない」と話す。野村総合研究所(NRI)ERMプロジェクト部の森田太士グループマネージャーは、「多くの企業が内心、自社のBCPが十分でないと気づいていたはずだ」と指摘する。

 東日本大震災から1年を経た今、企業は想定外を乗り越えるためのBCPを実行しなければならない。しかも、コスト面で現実的な手段を採る必要がある。

 それには、震災を経て明らかになった「BCPの新常識」の理解が大切だ。情報システムに関する新常識は四つ挙げられる(図2)。

図2●東日本大震災を経て変化したBCPの「常識」
あらかじめ想定するのが難しい災害にも、適切に対処できるようにすることを目指す
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 最も大切な新常識は「システムは必ず止まる」だ。従来は、災害時でも「システムをいかに止めないようにするか」を重視していた。これは今でも重要な視点である。しかし、震災での地震や津波、それに伴う停電により、被災地のシステムの多くは停止した。システムは必ず止まる。この前提の基で、業務を継続するための方策をBCPに盛り込む必要がある。

 近い将来、災害でシステムが全面停止する可能性は十分ある。政府の中央防災会議が大規模災害として想定する「東海地震」の発生確率は、30年以内に88%(図3)。「首都直下型地震」や「東南海地震」についても、今後30年以内に70%と高い発生確率である。

図3●中央防災会議が検討対象としている大規模地震
地震発生確率は文部科学省地震調査研究推進本部が公表している値
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