「想定外」を乗り越えるための対策として、バックアップサイトの構築、すなわち情報システムをもう一つ遠隔地に用意する取り組みが活発化している。災害によるシステム停止の可能性を、できるだけ低くするのが狙いだ。東日本大震災以降は特に、電力会社が異なる地域にバックアップサイトを設けるケースが多い。
本番系を事業者のサイトに移転
医療機器メーカーのテルモはその1社だ。2012年1月、震災を受けてバックアップサイト構築プロジェクトを開始した。神奈川県にある自社データセンターに加えて、データセンター事業者の関西拠点を利用してバックアップサイトを設ける(図1)。
「3~4年かけて、東西どちらでも業務を継続できる体制を整える」と情報戦略部の田尻裕 副部長は説明する。現在自社センターにある約140台のサーバーは、ハード更新やソフトのバージョンアップなどのタイミングで、徐々に関西拠点に移す。自社センターはバックアップサイトとするほか、開発環境として使う。
この方針を採ったのは、「事業者が運営するデータセンターの方が信頼性が高い」(同)からだ。自社センターは免震床で、自家発電装置も備える。しかし建物全体の耐震性や、自家発電装置を二重化しているなどの点で、本番系は事業者のデータセンターに置くのが望ましいと判断した。開発に使うのは、「バックアップサイトのシステム環境に慣れていれば、災害時に戸惑うことはないはず」(田尻副部長)という意図がある。
医薬品卸である東邦薬品は2012年1月に完了した基幹系システム刷新の一環として、関西のバックアップサイトを強化。関西に置く待機系サーバーのプロセッサ数を当初予定より5割増やして、東京拠点の本番系サーバーと処理性能をほぼ同じに引き上げた。
きっかけはやはり東日本大震災だった。「大規模災害が発生すると、医薬品のニーズは普段以上に高まる。そんな事態でも受発注が滞らないようにする社会的責任が当社にはある」と、開発本部の中込次雄システム企画室長は話す。それには、待機系の処理性能を本番系並みに高める必要があった。