システムの複雑化に頭を悩ませてきたユーザー企業は、垂直統合路線を支持している。それはメーカーの業績にも表れている。
「Oracle Engineered Systemsは、世界の大型コンピュータの中で最も売上高の伸びが高い。売上高は2012年度に、年間10億ドルに達する見込みだ」──。オラクルのラリー・エリソンCEO(最高経営責任者)は、2012年4月の「Oracle OpenWorld Tokyo 2012」の基調講演で、自信満々にこう語った。
ユーザーの支持を背景に、垂直統合は今後も進む。メーカーやシステムインテグレータ、さらにはユーザー企業のシステム部門は、ビジネスモデルや自らの役割を転換する必要がある(図9)。

メーカーは、垂直統合による製品の高付加価値化を一層求められるようになる。システムインテグレータは、ビジネスモデルを抜本的に改革しなければ、生き残りは難しい。ユーザー企業の情報システム部門は、アプリケーションの"永続開発"に業務の中心が移る。それぞれの今後進むべき道を見ていこう。
低価格ハードが高性能化
メーカーが垂直統合を推進するのはニーズがあるからだけではない。シーズ側の事情もある。
現在、ボリュームゾーンのハードの高性能化が進んでいる。推進役は半導体メーカーだ。半導体事情に詳しい中央大学理工学部の竹内健教授は、「半導体メーカーが販売する様々な分野の商用チップが高性能化し、市場から調達した商用半導体を組み合わせるだけで、十分な性能や機能を持つ低価格なハードが実現可能になった」と指摘する。
このような傾向は、コモディティー化が久しいサーバーだけでなく、ストレージやネットワーク機器にも及ぶ。
例えば、市場に出回る最先端の高密度イーサネットスイッチは、半導体メーカーが供給する商用スイッチングチップを採用することで、簡単に造れてしまう(表)。しかも、最大手のシスコシステムズが販売するスイッチと比べて、価格は大幅に安い。
高度な最適化が鍵
つまり、メーカーはハイエンド製品であっても、ハード性能を強化するだけでは、自社製品を差異化するのが難しくなりつつある。製品を差異化するには、IBMのように運用などの独自のノウハウまで垂直統合する必要が出てきたわけだ。
例えば、垂直統合型システムの扉を開いたオラクルのOracle Exadata Database Machineは、オラクル独自の"擦り合わせ"ノウハウを垂直統合することで、差異化を実現した。エリソンCEOは「Oracle Engineered Systemsは、すべてコモディティー部品で構成されている」と表現する。それでもエリソンCEOが胸を張る「世界一の性能」が実現しているのは、Exadataにおいては、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)やInfiniBandといった新たなハードの特性に合わせて「Oracle Database(DB)」などのソフトに手を加え、最適化しているからだ。SSD上でのデータの検索処理を高速化する「Smart Flash Cache」などが、ソフトを修正した例だ。
今後は、ハード側からのソフトへの最適化も進む。富士通は2013年に、DBを高速化する命令セットや演算回路を実装した新しい「SPARC」プロセッサを出荷する予定だ。オラクルは同プロセッサの採用も検討する。