SaaS(Software as a Service)をはじめとするパブリッククラウド(以降、クラウドと略す)の利用率が、年々高まっている。いまやシステムを検討する際には、当然のように選択肢に入るし、新しいシステム案件に対する提案依頼書(RFP)の提出先の一つにはクラウド関連のベンダーを必ず含める。オンプレミス(プライベートクラウドを含む)のソリューションを選択する場合でさえ、経営層にクラウドとの比較を説明しなければならないという企業は数多い。
その一方で、アイ・ティ・アール(ITR)の調査によると、すべてのシステムをクラウドに移行する計画を持った企業も少ない。つまり大半の企業は、オンプレミスとクラウドの両方を適材適所で採用することになる。
国内でクラウドが採用され始めた当初は、電子メールや社内ポータルなど、基幹系以外のシステムに適用する企業が多かった。しかし最近は、事業に直接関係する基幹/業務系システムにクラウドを採用する企業が増えている。このような状況下では、オンプレミスとクラウドをつなぎ、いかにうまくデータを連携させるかが重要になる。
システム連携で変化に強い企業へ
欧米ではREST(Representational State Transfer)、SOAPといったWeb技術やMOM(メッセージ指向ミドルウエア)を使ってシステムを連携させる例が一般的になりつつある。ところが日本では、オンプレミスとクラウドの連携に限らず、システム連携環境を整備している例は決して多くない。
現状では、マスターデータやトランザクションのサマリーデータをテキストファイルでバッチ転送しているだけという企業が目立つ。システム連携に取り組んでいる場合でも、場当たり的に連携ツールを導入した結果、複数のEAIツールやファイル転送ツールが並んだデパートのような状態になっている例が案外多い。
ビジネスおよび外部環境の変化に俊敏かつ柔軟に対応できるようにするには、システム連携環境の成熟度を高めなければならない。多くの日本企業にとって、今後の重要な課題と言える。
このような背景から、今回はビジネス改革のためのクラウド導入を決めた企業が、クラウドの効率的な利用を推進するために既存システムとの連携を行うプロジェクトを想定し、ベンダー各社に提案を募った。
想定したのは、全国で1000人の営業担当者を抱える大規模製造業のケースである。従来は、社外での対顧客活動を終了した後、オフィスに戻ってExcelベースの日報を提出していた。しかし、この方法では効率が悪く、十分に情報を共有できないなどの問題があった。そこで同社は、この状況を打破するために、営業活動の高度化・効率化を目的としてSaaS型のCRM(顧客情報管理)システム「Salesforce CRM」を導入することにした。本システムを有効に機能させるには、既存システムとの連携が重要となると判断。クラウドとオンプレミスシステムの連携システムを導入することとした(図1)。
■クラウド浸透によりシステムは複雑化、将来の拡張に備えて戦略的に要件を定義
■多様な連携対象、連携ルール定義の容易さもソリューション選定のポイント