クラウドは引き続き、IT活用における最注目キーワードの1つとなっている。スピーディなビジネス展開、事業継続対策、モバイル端末活用など、クラウドの持つ迅速性、拡張性、堅牢性を生かした取り組みが進んでいる。
一方で、既存の情報システムをクラウドへ移行しようとする動きは、当初の予想ほど急速には進んでいない。その要因を明らかにするためには、いったんクラウドという枠組みを外し、基幹系/情報系/運用管理系の各システムにおける課題と、「クラウド」という手段との関係を見つめ直す必要がある。
今回から3回に分けて、このテーマについて考えていくことにする。
「SaaS移行」によるコスト削減への過剰な期待
今回はまず、基幹系システムを取り上げる。ここでの「基幹系システム」とは会計、人事/給与、購買/販売、会計、生産/調達、物流/在庫およびこれらを統合したERP(統合基幹業務システム)を指す。調査データを見る前に、既存の基幹系システムにおけるクラウド活用に関する、これまでの経緯を簡単に振り返っておこう。
本稿の読者の多くはクラウドにSaaS、PaaS、IaaSといった様々な形態が存在することを既にご存知だろう。だが、クラウドが話題になった当初はメール、グループウエア、CRMのSaaSが具体例として頻繁に紹介された。この結果、ユーザー企業の間では「クラウド≒SaaS」という認識が広まることになった。
特に中堅・中小企業の間では、「手元にある会計や販売のシステムをクラウドというものに移せば、コストがかなり削減できるらしい」といった期待が高まった。だが、中堅・中小企業においても、基幹系システムを個別カスタマイズし、他システムと連携させているケースは多々ある。
ここでの「個別カスタマイズ」とはプログラムの改変や追加を伴い、本体のバージョンアップ時には何らかの適応措置が必要となる機能の変更/追加を指す。そのため、「クラウド≒SaaS」という発想だけでは既存システムの移行は困難となってしまう。
次のグラフは年商5億~500億円未満の企業に対して、「基幹系システムにおけるクラウド活用の障壁」を尋ねた結果である(図1)。一般的に言われている「データを外に出したくない」という項目よりも、既存システムをSaaSへ移行しようとする際に生じる課題の方が多く挙げられている。「データを外に出す」ことへの抵抗感だけでなく、むしろ「クラウド≒SaaS」という固定観念こそが基幹系システムにおけるクラウド活用の大きな障壁となっているのである。