「仮想デスクトップが事業継続に役立った」。東京海上日動システムズの小林賢也ITサービス本部長代理はこう振り返る。東京海上日動火災保険は、東日本大震災で被災した支社にシンクライアント端末の代替機を送り、業務を素早く再開させた(図1)。

図1●事業継続に仮想デスクトップを役立てた東京海上日動火災保険
東日本大震災で被災した支社に対して、シンクライアント端末の代替機を送り業務を再開した。仮想デスクトップの仕組みにより、全社員のデスクトップ環境を首都圏のデータセンターで一元運用していたから可能だった
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 仙台など被災地の支社では、津波の影響で端末が利用できなくなった。ところが同社は、NECの「VirtualPCCenter」を導入し、仮想デスクトップに移行していた。社員のデスクトップ環境は、東京圏のデータセンターにまとめてある。被災した支社の会議室や災害対策拠点に代替機を設置し、データセンターにつなぐことで、使い慣れたデスクトップ環境が呼び出せた。

 被災地に駆け付けた社員も、この仕組みで自分のデスクトップ環境に接続し、業務を支援した。同社が被災地に送った代替機は、2011年4月末までに1800台に上った。

三菱東京UFJ銀行は5万台弱を移行中

 震災対策や電力不足への懸念から、BCP(事業継続計画)のニーズが高まっている。IT施策の一つとして、仮想デスクトップが注目されている。「2000人規模で導入検討中のある企業は、BCP枠で300人分を先行させる計画だ」(ヴイエムウェアの野崎恵太 プロフェッショナルサービス部長)。

 仮想デスクトップは、サーバーを仮想化して仮想マシンを作り、そこでクライアントOSやデスクトップアプリケーションを動かす。サーバー側で環境を一元管理できるので、セキュリティ対策が容易、運用コストが下げられるなどのメリットがある。

 三菱東京UFJ銀行は、ヴイエムウェアの「VMware View」を導入し、5万台弱のPCを仮想デスクトップに移行中だ。「仮想デスクトップはサーバー側をしっかりと作っておくことが大切。サーバーの配置でリスクがコントロールできるので、BCPの考え方がシンプルになった」(三菱東京UFJ銀行 システム部の徳永瑞彦上席調査役)。

 仮想デスクトップは、画面転送ソフトを導入した端末があれば、会社やモバイル環境、従業員宅など、どこからでも個人のデスクトップが利用可能だ(図2)。

図2●会社、モバイル環境、従業員宅から同じデスクトップを利用
東日本大震災で被災した支社に対して、シンクライアント端末の代替機を送り業務を再開した。仮想デスクトップの仕組みにより、全社員のデスクトップ環境を首都圏のデータセンターで一元運用していたから可能だった
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 「震災後は、会社のPCを持ち出すよりも、従業員宅のPCで仕事をしたいという引き合いが強い」(日本マイクロソフト プライベートクラウド製品部の原田英典シニアプロダクトマネージャ)。

 仮想デスクトップの利用が進み、求められるノウハウが構築から運用へ移りつつある。BCPや在宅勤務での利用を考えるなら、ソフトライセンスや、端末の選択も重要だ。最新動向を見ていこう。