本連載を始めるにあたって、最初に皆様に謝罪しておきたいことがあります。日本企業のERP(Enterprise Resource Planning)導入が本格化したのは今から約15年くらい前のことですが、そのきっかけのひとつに筆者が中心となって執筆した「SAP革命(1997年、日本能率協会マネジメントセンター刊、ERP研究会著 )」という本がありました。

 読者の中にも「SAP革命」を読んでERPに興味を持った方もいるのではないでしょうか。最近この本が本当に日本企業の経営情報化に貢献したのか疑問を感じるようになってきました。

 当時ERPという言葉は、ほとんど知られていませんでした。それまでの業務パッケージシステムは先行ユーザー向けに開発したシステムを横展開したものが中心でした。パッケージの利用にあたっては当該企業の業務内容に合わせてカスタマイズ(改造およびアドオン開発)するのが一般的でした。

 一方でERPパッケージは最新の経営管理理論をベースにした標準的な業務があらかじめシステム化されているので、業務をパッケージに合わせるだけで最先端の経営情報システムを効率的に構築できるというのが謳い文句でした。筆者もその謳い文句を信じた一人です。

 このERP本来の狙いを十分に生かしてシステム構築できた日本企業を、あまり見たことがありません。本来はノンカスタマイズで導入できるはずなのに、スクラッチ開発(個別開発)以上の多額なカスタマイズ費用の発生を余儀なくされた企業や、ERP導入によって現場業務がうまく回らなくなってしまった企業が続出しました。「こんなことであれば昔のシステムを使っていた方がよかった」と思っている企業関係者もいるのではないでしょうか。

 こうした状況はERPシステムの導入が、15年前に期待されたほど素晴らしいものではなかったということを意味します。当時ERP導入を薦めた当事者として反省しなければなりません。そこでERP普及を扇動した端くれの一人として、日本企業のERP導入のどこに問題があったのかを本連載を通じて総括したいと考えています。現在ERPの導入を検討中の読者は、ここで説明する失敗パターンに自らが陥らないよう、十分に気をつけていただきたいと思います。

なぜ大量カスタマイズが必要になってしまったのか

 最初に問題とするのは、なぜERPパッケージに対する大量カスタマイズが必要になってしまったのかです。このことを考えるにあたっては、ERPのルーツに遡る必要があります。

 ERPは「MRPII(Manufacturing Resource Planning=製造資源管理)」という生産管理理論から発展してきました。MRPIIは製造資源をいかに効率よく動かして製品を製造するかに焦点をあてて管理します。これを企業経営全体に発展させたのがERP(Enterprise Resource Planning=経営資源管理)です。当該企業が保有する経営資源(ひと、もの、かね、情報)をどう効率的に扱うかをターゲットにした管理機能が強化されています。

 ERPが注目を集めた背景には、欧米の企業経営ではMBAを持ったプロ経営者が担うのが一般的になっていることがあります。ERPパッケージは彼らが効率的な経営管理をするためのツールとして発展してきました。

 業務処理に関しても彼らが理解しやすいように経営管理理論に従った標準的な業務フローをベースにして処理する仕組みとなっています。ERPパッケージの宣伝でよく使われる「グローバルスタンダード」という言葉は、彼らの立場から見たスタンダード(標準)という意味です。

 ただし、業務処理の標準化といっても実際にすべての企業が同じ業務をしているわけではありません。そこで初期のERPパッケージは、多くの企業でほぼ同じような業務処理をしている財務会計システムや大量消費財メーカーの販売・生産管理システムをターゲットにしました。そのため、はじめのころのERPパッケージは、こうした業務や業界での利用が中心でした。

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