ユーザー企業は、自社の主要システムで利用しているソフトの料金変化に、どう向き合っていくべきなのだろうか。
「ソフトメーカーは自身のビジネスの都合で料金を改定するものである」――。この前提の下、自社の不利益をできるだけ減らすと同時に、ソフトを活用することで得られる利益を最大限にするように努めるといいだろう。「ソフトメーカーの都合に右往左往しない、賢い顧客へと変わるべきだ」(日本情報システム・ユーザー協会〔JUAS〕の細川泰秀顧問)。
賢い顧客とは、「長期的な視点に立ち、主体性をもって戦略的にソフトを選ぶ企業を指す」(細川顧問)。ユーザー企業やインテグレータへの取材を基に、ここでは賢い顧客になるための五つのポイントを示す(図1)。
【ポイント1】 不利益には声を上げる
不利益と感じたことには、はっきりと声を上げる。それもユーザー企業が1社ずつバラバラにではなく、まとまって意見を表明する。そこで活用したいのが、製品やメーカーごとのユーザー会である。
実際にメーカーが打ち出した料金改定に「ノー」を突きつけて、譲歩を引き出したユーザー会がある。SAP製品のユーザー会である「SUGEN」だ。SUGENは日本の「JSUG」など世界12のユーザー会からなる組織である。
2008年7月に独SAPが、保守サポートサービスの新体系「Enterprise Support(ES)」を発表した際、SUGENは世界のユーザー会の声をとりまとめた上で、「90%のユーザー企業が反対している」との結果をSAPに提出。SAPとの間で、ES導入に関する協議を開始した。
その結果、SAPは2010年1月に、2012年までに実施するとしていた値上げ時期を2016年までに延期することを決めた。さらに、ESよりも保守サポート内容を簡素化した下位版である「Standard Support(SS)」を新設した。
【ポイント2】 絞り込みのリスクを知る
導入するソフトを特定の製品に絞り込むことのリスクを、改めて確認する。
例えば社内で使うデータベースを日本オラクルの製品に統一すると、習得する技術を絞り込める、社内で担当者の融通が利きやすくなる、ボリュームディスカウントを受けられる、といったメリットが生じる。一方で、特定のソフトメーカーに囲い込まれることにもつながり、今回のような料金改定の影響を受けやすくなる。
オラクルによるインテル製大型サーバー用プロセッサ「Itanium(アイテニアム)」向けソフトウエア製品の値上げの影響を受けることになった住友林業は、1998年から住宅事業の基幹系システムをOracle Database上に作り込んできた。見積もりや受注管理、工事管理といった複数のシステムを、Oracleを使って構築すると同時に、Oracleに特化してプログラムの部品化などを進めていた。その結果、開発生産性やシステム部員の習熟度は高まった。しかし「特定の製品に特化することは、強みであると同時に弱みにもなることが(今回の値上げで)分かった」(三根正廣 情報システム部長)。