WANサービスは、企業の拠点間を結ぶのに使われる通信サービスだ。旧来は、拠点間を1対1で接続する専用線がよく使われていた。最近では、インターネットおよびイーサネットの技術的な進歩と普及により、主に(1)IP-VPN、(2)インターネットVPN、(3)広域イーサネット---の3種類のサービスが利用されている。これらはどれも、一つの拠点から複数の拠点に接続できる1対n接続型のWANサービスになる。現時点で拠点間を結ぶWANサービスの導入を予定している企業ユーザーなら、これらが検討の対象となるだろう。

 (1)のIP-VPNは、通信事業者が企業ユーザー専用のIPネットワークを提供するサービスだ。その多くは、バックボーン区間の信頼性や品質を保証している。ユーザーにとってIP-VPNは、自社専用のルーター・ネットワークに見える。

 IP-VPNサービスの中には、通信事業者のIPネットワークと拠点を結ぶ足回り回線にFTTH(fiber to the home)やADSL(asymmetric digital subscriber line)を使う「エントリーVPN」と呼ばれるサービスがある。足回り部分で帯域や遅延時間を保証できないが、月額料金を安く抑えられるため、数多くの企業ユーザーの支持を集めている。

 (2)のインターネットVPNは、インターネット上にIPsec(security architecture for IP)などの技術を使って構築するVPNである。拠点ごとにVPNゲートウエイ装置を設置し、拠点間の通信を暗号化、カプセル化しながら転送する。通信サービスとして提供されるインターネットVPNでは、このVPNゲートウエイ装置を通信事業者が用意する。こうすることで、ユーザーはVPNインターネットを自前のIP中継網のように扱える。

 (1)と(2)はIPベースのサービス。それに対して(3)の広域イーサネットは、イーサネットフレームを中継するWANサービスだ。利用するユーザーからは、LANスイッチのネットワークとして扱える。企業ユーザーは、広域イーサネット上に自由にネットワークを構築できる。IPネットワークを作って利用するのが一般的。IPアドレスの割り当てなど、ネットワーク設計の自由度が増すのが魅力だ。

バースト対応とハイブリッド化がトレンド

 これらのWANサービスの現在のトレンドと言えるのが「バースト対応」と「ハイブリッド化」だ。

 ここまで見てきた3種類のWANサービスの特徴は、回線速度とは別に「契約帯域」という速度を設定するものが多い点。利用できる速度(帯域)の上限をあらかじめ設定しておくわけだ。契約帯域が大きいほど月額料金は高くなる。

 バースト対応は、IP-VPNや広域イーサネットの契約帯域を超えて、物理回線の最大速度まで使用できるようにするものだ。KDDIの「WVS」やNTTコミュニケーションズの「バーストイーサアクセス」が代表である。契約帯域を超えた部分のスループットは保証されないが、広帯域を割安に利用できるというメリットがある。

 もう一つのトレンドであるハイブリッド化は、複数のサービスを組み合わせて一括提供することである。例えば、センター拠点はイーサネット専用線でIP-VPNに接続し、そのほかの拠点はFTTHで収容するエントリーVPNを使うといった構成が可能となる(図1)。もちろん、IP-VPNを使う拠点とエントリーVPNを使う拠点の間で自由に通信できる。

図1●IP-VPNで従来型とエントリーVPNを併用する例
図1●IP-VPNで従来型とエントリーVPNを併用する例

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