ニチイ学館の寺田剛広報本部取締役本部長
ニチイ学館の寺田剛広報本部取締役本部長
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 医療事務受託や介護、教育事業を手がけるニチイ学館が、コールセンターに寄せられる顧客の声を分析する体制を強化している。音声を認識してテキストデータに全変換するツールと、文字や単語の出現頻度と傾向を解析できるテキストマイニングツールを導入。2011年4月に本格運用を開始する。コールセンター部門を統括する広報本部の寺田剛取締役本部長は「顧客の不満情報を正確に仕分けし、重要度の高い不満に適切に対処することで顧客満足度を高めたい」と狙いを語る。

 ニチイ学館が採用した音声テキスト変換ツールは、アドバンスト・メディアの「AmiVoice」。テキストマイニングツールはクオリカの「VextMiner」である。2010年8月末に試行を始めた。

 半年にわたって試験運用を続け、テキストの変換精度を確認。テキストマイニングツールの活用法について、ノウハウを蓄積してきた。変換精度は「想像以上に優れている」(広報本部の遠藤公典広報部上田コールセンター課長)。マイニングツールのノウハウもたまりつつあることから、本格運用への移行を決めた。

 運用体制はこうだ。長野県上田市にあるコールセンターに電話で寄せられた顧客の声を全て録音し、その音声をテキストデータに変換。全文のテキストデータをマイニングツールにかけて解析し、頻出する単語などに基づいて不満の傾向を抽出する。その対応策を広報本部や支店で検討する。毎年度末に主に紙で実施している顧客満足度調査の結果と照らし合わせ、「顧客満足度の改善につなげたい」(寺田取締役)。

増え続ける不満の声を正確に再現

 ニチイ学館では年々、顧客がコールセンターに不満の声を寄せる割合が増えている。介護事業を例に取ると、2010年には約5万件の入電があり、その半数が何らかの不満情報だった。不満情報には、ニチイ学館が対処すべき正当なものがある一方で、介護保険法の制度上、対応できない要求も含まれているという。介護するヘルパーが正当な対応をしたものの、対象外の部屋の掃除まで要望されたのを断ったことがクレームとして寄せられるようなケースだ。正当な不満も、緊急性が高いものからそれほどでもないものまで様々である。

 不満情報の切り分けを確実に実施するには、顧客がどのような不満をオペレーターに話していたのか、忠実に再現することが望ましい。「オペレーターが電話で聞き取った内容を手作業でシステムに登録すると、途中で表現が変わる可能性が高い。意味合いまで変わる恐れがある」(寺田取締役)。そこで音声テキスト変換ツールを使い、オペレーターがシステムに手入力するよりも正確に記録できるようにした。精度の高いテキストデータを利用するため、テキストマイニングによる解析の精度も相応に高まるわけだ。

 ニチイ学館は従来、顧客対応は基本的に全国各地の支店に任せていた。コールセンターに不満の声が寄せられた場合は、その内容を該当する支店に転送していた。しかし、「顧客の声を正確に現場に伝達できているのか、現場が顧客のニーズをくんだ改善をしているのかどうかは確信を持てなかった」(寺田取締役)。緊急性の高い不満情報が埋もれていた場合には、経営上の大きなリスクになる。今回の体制で全ての不満情報から傾向を分析し、こうした不安を解消しやすくなる。

 アドバンスト・メディアによると、同社の音声テキスト変換ツールを導入している他の企業よりも、ニチイ学館は高い変換精度を得られているという。特に教育事業への問い合わせは高い変換精度を実現している。問い合わせ内容に個人差が少ないことや、コールセンターのオペレーターの座席間隔が広くて隣同士で音声が混信しにくいことなどが効果を上げていると見られる。