起動手順を簡略化
一口にNANDフラッシュ・メモリを使った瞬間起動の技術といっても,デジタル家電向けとパソコン向けでは違いがある。
デジタル家電では,動作時の主記憶の状態をあらかじめフラッシュ・メモリに記憶しておくことで瞬間起動を実現する。パソコンで「ハイバネーション」と呼ばれる技術である。この技術を使うと,システムが起動する手順を大幅に簡略化できる。
具体的には,NANDフラッシュ・メモリに,機器が起動したときのスナップショット・イメージ(主記憶の状態など)をあらかじめ記録しておく。起動時には,「ブート・ローダ」と呼ばれる起動プログラムがNANDフラッシュ・メモリからスナップショット・イメージを主記憶に読み込めば起動が完了してしまう。従来,特にアプリケーション・ソフトウエアの起動にかかっていた時間を大幅に短縮できる。
デジタル家電向けのハイバネーション技術は,デジタル民生機器へのLinuxの適用を推進する非営利団体「CELF」や,組み込みLinux製品の開発・販売を手掛けるトライピークスなどが基本技術を開発し,機器メーカーで評価が進んでいる。CELFには,ソニーや松下電器産業などが参画している。
ハイバネーションの導入による効果は,搭載するアプリケーション・ソフトウエアの容量などに依存するため一概には言えないものの,「例えばLinuxの起動時間を従来の1/5程度に短縮できる場合がある」(トライピークス)としている。
HDDの機械動作がボトルネック
パソコンでは,起動時のHDD(ハード・ディスク装置)の立ち上がりの遅さをNANDフラッシュ・メモリで補うことが主眼である。システムの起動に必要なプログラムをNANDフラッシュ・メモリに格納しておくことで,高速にプログラムを読み出す。
パソコンの起動を遅くする主な要因のひとつはHDDの「スピンアップ時間」にある。これは電源を投入してからディスクの回転が安定して,データを読み出せるまでに要する時間だ。「5400rpmの2.5インチHDDでは通常2.5〜3秒,7200rpmの3.5インチHDDだと最大13秒もかかってしまう」(日本シーゲイト)。ディスク上のデータへアクセスする時間も無視できない。HDDのアクセス時間は,1回当たりおよそ15〜20msもかかる。起動時に読み出すデバイス・ドライバや,アプリケーション・ソフトウエアなどはディスク上に離散しており,それぞれにアクセスする都度これだけの時間を要する。
NANDフラッシュ・メモリに起動プログラムを格納しておけば,HDDのスピンアップ時間やアクセス時間の無駄を省けるため,起動時間を短縮できる。
究極のSSD搭載パソコン登場
パソコンでは,瞬間起動を実現する技術として2つのタイプが注目を集めている。一つは,NANDフラッシュ・メモリを内蔵する半導体ディスク装置(SSD)をHDDの代わりに使う技術。もう一つは,NANDフラッシュ・メモリとHDDを併用するハイブリッド・タイプの技術である。
韓国Samsung Electronics社は2006年6月,SSDを搭載した初めてのパソコンを発売した。SSDの容量は32Gバイトである。SSDは,電源投入後のHDDのスピンアップ時間などを省ける上,1.8インチHDDよりデータの読み出しが高速なため,起動を速くできる。現段階では瞬間起動とまでは言えないが,同社のテストではWindows
XPを15秒で起動できたという。これは,同様のスペックを持つ1.8インチHDD搭載パソコンの起動時間の約半分である。同年7月には,ソニーも16GバイトのSSDを搭載したパソコンを発売している。
瞬間起動を実現するための技術の詳細や動向,NANDフラッシュ・メモリの動向については,日経エレクトロニクス7月31日号pp55-77のSpecial
Feature「瞬間起動,フラッシュ・メモリがもたらす機器の進化」をご覧ください(日経エレクトロニクスのサイトはこちら)。
(内田 泰)
| 2006年8月25日 |
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