Webの離れ小島にこそ穴場あり

―― 「Web2.0」という言葉に代表されるように、新たな技術革新への関心が高まっていますが。
 今のWebは未熟だね。レベルがあまりに低い。1960年代に示されたコンセプトのうち、実現できていないものがたくさんある。Web関連の人たちは、何でも自分でやりたがる。過去から学ぼうとしない。過去に対する好奇心が薄いのだろう。だから、Webの技術は遅々として進歩しない。例えば、言語「Logo」のことを記述したWikipediaのページをみても、そこでLogoのプログラムを実行することさえできない。今のコンピュータは、昔の「Apple II」に比べれば1万倍も高速化しているというのに。
 Webの世界を見ていると、人気のあるメインストリームの内容ほど創造性に乏しい。私はそう思う。ところが、Webも捨てたものではなく、離れ小島のようなサイトに目を向けると、少人数のとても小さいグループが画期的な活動をしているのに気付くこともある。例えば、米Cycorp社という会社は、過去20年かそこらの間に、人間の常識を利用した巨大な知識ベース・システムの構築に取り組んでいる。まだ限られた情報しか開示されていないが、50人ほどの敏腕研究者が関わっており、着実に成果を挙げているようだ。まだ穴場的な存在のプロジェクトだが、この企業の先行きは注目に値する。

―― なぜWebの技術進歩が遅いのでしょうか。
 それは、レベルの低いところにスタンダード(標準仕様)が設定されているからだろう。インターネット上に、自動化された新聞のようなサイトを実現することは、それほど難しいことではない。ただ、そこに満足してよいのだろうか。もっと、あなたがたのビジネスの役に立つような仕組みはできないのだろうか。
 例えば、だれかが新たに五つの提案をしたとする。おそらくWeb関連の人はその五つをことごとく拒否するだろう。その理由として、「スタンダードを使わなければなりませんから」というに違いない。そのスタンダードは、10年前には存在していなかったことを忘れている。新しいスタンダードは、いつでも始められるはずなのに、今では誰もが他の人たちが賛同するのを待ち続けている。だれかが始めてくれるのをみんなが待っている。そうこうするうちに、斬新なアイデアも忘れられ、消え去っていく。あるいは、そのアイデアを少しずつ動かしていくのに、10年も15年もかかってしまうのだ。世界が大きくなると何事もひどく緩慢になってしまうのかと思うとなげかわしい。


 

 

いずれ印刷行為は不要になる

Alan Kay氏

 

 

―― 技術進歩にもどかしさを感じていらっしゃるようですが、それでも、Webは確実に社会生活に浸透しています。
 コンピュータの歴史は、本の歴史と酷似している。印刷機が発明される前と後で時代はどのように変わったのだろうか。印刷機の登場によって、消費者は本を所有することが可能になった。それと同時に、本を執筆し、それを多くの人に広める手段を手に入れることができた。それと同じようなことがコンピュータの歴史でも起こっている。
 パーソナル・コンピュータも、かつては高価なものだったが、今では大衆化して、みんなが持てるようになった。紙でも同じような話がある。産業革命前の欧州でこんな事件があった。紙を求めて人々が争いを起こしたことがある。当時、紙は布きれから作られていた。紙を作る布きれをめぐって、人々は紛争を起こした。ところが産業革命によって、紙は木材パルプから安価に作られるようになり、争いはなくなったのだが、かつて紙はそれほど貴重品だったわけである。

 

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