スペインの有名なエピソードにこんなものがある。硬い石を、いまいましいとぶつぶつ言いながら削っている石工がいる一方で、鼻歌を歌いながら石を刻んでいる石工がいる。二人の石工に話を聞いたら、一方が「こんな硬い石を削らされて」と不満を訴えるのに対して、鼻歌を歌っている方は、「私はあの寺院のあそこの部分を造っているんだ」と充実感をにじませる。
何のために石を刻んでいるのかという目的を認識していれば、自分が与えられた作業に意義付けができるということだ。作業への使命感も芽生える。
システム部門の仕事も同じである。例えば銀行の場合、顧客に選ばれるためには、「人」と「IT」の二つの勝負になる。窓口におけるフェース・トゥ・フェースの対面サービスと、顧客の多様な要望に応えるためのCRM(顧客関係管理)システムやインターネットを駆使した新サービスが、ともに不可欠なのだ。
こう考えると、システム部員は、銀行経営にとって大変重要な役割を担っているといえる。だが、システム部員は、自らの仕事が経営にどう貢献しているのか、営業要員などに比べて実感しにくい面がある。
銀行のシステム開発では、高度な品質が要求されるし、納期のプレッシャーも厳しい。気の休まることがない仕事だ。さらに、ユーザー部門からはシステム化の要求がひっきりなしに舞い込む。日進月歩で変化を続けるITを常にキャッチアップしていかなければならない。一歩間違えれば、「硬い石ばかり削らされて」となりかねない。
システム部員が充実感を感じて、いい仕事をするには、経営に対するITの貢献度をシステム部員に伝えることが欠かせない。その役割を担うのが、システム部門のリーダーであるCIO(最高情報責任者)だと思っている。
そのためCIOには、ITの詳細に詳しいというよりも、企業全体のなかでシステム部門のあり方やシステムの位置付けを考えられる人材、それをシステム部員にきちんと説明できる人材を起用している。
もちろんCEO(最高経営責任者)にも、経営会議などでの決定事項やその経緯を、すべての社員にきちんと伝える責任がある。正直言って、銀行はトップダウンで動くのは得意な組織だが、上から下への説明責任を果たすというのは、あまり上手ではない。
楽しく仕事に臨むシステム部員を増やすためには、CEOやCIOが社員への説明責任をしっかり果たさなければならないと考えている。(談)
写真=新関 雅士 |