再考 二〇〇七年問題 解決への道筋

第2回 ビジネスとITの“ブラックボックス化”

 

 

 情報システムの西暦2007年問題の解決策を考える前に、問題を整理してみたい。

 この問題についておそらく日本で初めて報じたコラム『ベテラン引退がもたらす情報システムの「西暦2007年問題」』を、「新潮流を読む」のコーナーに再掲した。2003年3月31日に、日経ビジネスEXPRESSにて公開したものである。

 このコラムを煎じ詰めると、次のような定義が導かれる。

ITの西暦2007年問題とは
「情報システムのブラックボックス化」のことである。


 ブラックボックス、つまり普段は動いているし、きちんと所定の役割を果たしているが、中身の仕組みがよく分からない、という状態である。企業の情報システムにおいて、ブラックボックスになっているのは、まず第一に、コンピューターの上で動いているソフトウエア(プログラム)である。コンピューターを使って、企業で使う情報を集計したり、必要な時に必要な部署に所定の情報を送ったりするために、ソフトウエアというものが必要になる。このソフトウエアがコンピューターに指示を与える。ソフトウエアは、企業内の情報システム担当者あるいはコンピューターメーカー、IT(情報技術)企業のエンジニアがプログラミング言語というものを使って記述する。

 ソフトウエアがブラックボックスになってしまうと、どのような問題があるのか。普段は特に問題はない。コンピューターも、ソフトウエアも滞りなく動いている。ただし、企業のビジネスは毎日、変化していく。ビジネスの変化に応じて、情報システムを修整しようとしたとき、問題が発生しかねない。ブラックボックスゆえに、どこをどう直せばよいか、よく分からず、無理に直すと、コンピュータープログラムに不具合を生じ、ビジネスに悪影響を与えてしまう。

 なぜソフトウエアは、ブラックボックスになってしまうのか。企業が利用している情報システムのソフトウエアに関し、老朽化と肥大化という事象が必ず起きる。最初にそのソフトウエアを記述した直後は、開発した担当者が企業内、あるいは企業の近くにいる。担当者は、ソフトウエアの中身までよく分かっているので、ビジネスの変化に応じて、ソフトウエアを修整していける。ただし時を経るにつれ、修正箇所が増え、ソフトウエアの構造が乱れてくる。色々な例外的処理が追加されていくので、ソフトウエアの総量も増えてくる。

 しかも、老朽化し肥大化したソフトウエアの全体像を見渡せるベテラン開発者が減っていく。定年退職してしまう場合もあるし、人事異動や転職で分かる人が現場からいなくなってしまう場合もある。こうして、ソフトウエアのブラックボックス化が進んでいく。

 情報システムのブラックボックス化といった場合、ソフトウエアだけではなく、企業の仕事のやり方そのもの、仕事を進める上で必要になる情報、まで含むことがある。情報システムとは、企業情報を取り扱う仕組みと、それを支えるコンピューターおよびソフトウエアで構成される。このうち、仕組みのほうまでブラックボックスになってしまうことがある。

 仕事の仕組み、すなわちビジネスプロセスまでがブラックボックスになってしまうとはどういうことか。企業のある部門の仕事の進め方がどのようになっているのか、なぜそのようになっているのか、分かる人がいない、といった状態を指す。

 これはコンピューターがもたらした弊害である。一番最初にコンピュータを導入した時に、仕事のやり方を整理し、コンピューターで処理できるところはコンピューターに任せた。それからかなりの年月がたってしまうと、なぜそのような処理にしたのか、なぜその手順で業務を処理しているのか、分からなくなってくるのである。

 ある製造業のシステム責任者はこう漏らす。「かつて当社の経理部門の人間は全員、原価計算ができた。ところが最近の経理の人間は原価計算のやり方を知らない。コンピューターで処理しているため、やり方を知らなくても済むからだ。これでいいのかと時々思う」。これが「ビジネスのブラックボックス化」の一例である。

 ソフトウエアと同様に、普段は何の問題もない。しかしひとたび業務改革をして、仕事のやり方を見直そうとすると、現状を把握している人や、現状の仕組みを記述した文書がないことに気付く。

 ここまで読まれた方は次のような疑問を抱くのではないか。

「ブラックボックス化の問題は確かにあるかもしれないが、2007年とは必ずしも関係ないのではないか」

 その通りである。大変申し訳ないが、情報システムのブラックボックス化と2007年とは直接関係がない。2007年になった瞬間、問題が顕在化するわけではない。ブラックボックスの弊害、対処ができるベテランの不在、といった問題は今、すでに起きている。

 なぜ、2007年問題という名称を付けたのか。次回はそれについて説明する。

 

(ITの西暦2007年問題研究グループ)

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