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 日経コミュニケーションでは,2005年10月1日号からネットワークとコンピュータのソリューションについて取り上げた「理論派ネットワーキング−−つなぐだけではもう通用しない」という連載を掲載している。

 今やIT部門に携わるユーザーにとって,ネットワークだけでなくコンピュータ分野の技術やビジネスの知識も不可欠。こうした課題に対して,日本IBMでアプリケーション開発,ミドルウエアやネットワーク・サービスなどを幅広く手がけた山下克司氏がその解法を明らかにしていく。

最終回
縮こまるな!ネットワーク・エンジニア

2005年10月1日号からスタートした「理論派ネットワーキング──つなぐだけではもう通用しない」の連載は今回が最終回となる。最後はまとめとして各部の全体像をお見せすると共に,連載中に取り扱うことのできなかった事例などを交え,これまでの内容を振り返る。(本誌,以下に2006年9月15日号の日経コミュニケーションから一部を掲載)

 
   
 2000年以来,ネットワーク機器の低廉化やブロードバンドの普及に伴う回線サービス価格の下落が,ネットワークのコモディティ化を急速に進めた。コモディティ化とはエンジニアにとって,これまで培ってきた技術が成熟を迎え,いかなる状況にあっても最低限の機能でしか貢献できないし,期待もされないということを意味している。

 しかし,ネットワークが企業ITシステムに果たす役割が小さくなっているわけではない。いまやネットワークを使わないITシステムはない。求められる機能や特性もこれまでのネットワークとは大きく異なる。

 この連載は23回にわたって,4部構成でお送りしてきた()。各回を振り返って,ITシステムのインフラストラクチャとしてのネットワークは,「つなぐだけでは通用しない」ことを再確認したい。

第1部「ビジネス投資とネットワーキング」

 基本的なネットワーク接続のサービスそのものがコモディティ化してしまっている中では,安価であることがサービスの最も重要な価値であるかのような錯覚を覚えてしまう。しかし,情報化社会ではネットワークに新たな価値が求められている。価格下落に伴うTCO削減と,付加価値を高めた戦略的な投資の二面が存在しているのである。第一部では,こうした環境下で企業がネットワークに投資している理由を正しく理解することが重要になっていると述べた。

 まず,企業がネットワークに投資する理由を大きく二つに分ける。一つは生産設備やIT資源などを最適化し,同じ生産量を少ない資源で実現,スリムな経営環境を実現することだ。一方でこうした最適化投資には縮小均衡の危険が潜んでいる。市場規模や顧客の需要に変化を引き起こすことができなければ,生産性の向上やTCOの削減といった最適化投資が営業部門や事業予算の縮小などにつながり,内向きの投資になっていく危険がある。だからこそ大切なのが明確な投資回収の計画(ROI)である。

第2部「ネットワーク・テクノロジー」

 トラブルが発生したときのネットワーク・エンジニアの常套句「帯域には問題ありません」「ルーターには何のエラーも発生していません」「目立ったパケット廃棄はありません」。こうした態度は問題を何一つ解決しない。

 ネットワーク・エンジニアが管理している範囲はネットワークである。当たり前のことだ。しかし,ネットワーク技術には何の価値もなくなってコモディティ化してしまった現在,ネットワーク単体の課題が無いからといって,システム間の課題が解けるとは思えない。現代はネットワークはネットワーク・エンジニア,OS・ミドルウエアはインフラストラクチャ,アプリケーションはシステム・インテグレータ,と明確に役割が分かれ,専門化してしまっている。オープン・スタンダードの流れに沿ってシステムを分割してきたため,各コンポーネントがスタンダードを遵守していれば動作するという前提のもとで,あまりに複雑化してきた結果の産物だ。そしてスペシャリストという枠に閉じ込められたために,システム全体像を把握できる人材が不足してきており,これはIT業界全体の悩みではないだろうか。こうした環境の中で,各コンポーネントのエンジニアが各自の課題だけに集中していては,解決できる問題も解決しなくなってしまう。

第3部「アプリケーションとネットワーク」

 「ネットワーク・エッジ・モデル」という表現がある。サーバーのインフラストラクチャとしての機能をネットワークの末端部に取り込んでいくモデルである。代表的なものがファイアウォール,SSLアクセラレータ,負荷分散装置などである。

 ネットワークはこのアプライアンス群を生かしてアプリケーションの処理体系を支えていく。ネットワークの設計においてはアプリケーションにおける処理の構造=トポロジを理解している必要がある。

第4部「ビジネス・レジリエンス」

 ネットワークの可用性は企業ITシステム全体のレジリエンスを決定する要因となる。ネットワークは常に切断,故障などのトラブルに直面している。他のITシステム・コンポーネントに比較すると,格段に多くのサブコンポーネントによってできているからだ。また,ルーティング・プロトコルやブロードキャスト,マルチキャストなどは,End-to-Endの経路だけではなく周囲にも影響される。この大量なシステム・コンポーネントのどの部位に障害が発生してもネットワークは全体で停止,あるいは性能劣化してしまうため,障害の発生率が高い。そうした理由からネットワークの設計には常にバックアップ経路が考えられてきた。こうした高可用性の考え方と,BCPの視点はどう違っているのだろうか。

 ビジネス・レジリエンスを支えるBCPは,第四部で集中的に扱った。そこでは,一貫してビジネス・レジリエンスについてはネットワークの高可用性だけではないバランスの取れた戦略が必要だと述べてきた。

山下 克司
(やました・かつし)

日本アイ・ビー・エム
ネットワーク&サイトインテグレーションサービス事業部 シニアコンサルティングITスペシャリスト

87年,日本IBMの研究開発部門に入社。その後SEとして営業部門に転じ,オフィス・コンピュータのS/38,AS/400のデータベース・アプリケーションの開発および技術支援に携わる。2000年にネットワーク・サービス事業部に異動。ネットワークの視点から,企業の基幹業務システムや情報基盤のコンサルティング,設計,構築を手がける。2003年から現職。日本IBMではネットワーク・サービス事業部全体の技術戦略を担当している。IBM全世界共通の基準で優れた技術力を有する社員に与えられるIBM Certified Professionalの資格を持つ。

第1部 「ビジネス投資とネットワーキング」
Vol.1 「便利なだけ」では投資に値せず
ビジョンを実現するネットを作れ

  Vol.2 常にROIを考えて投資をせよ
IP電話に見る回収の方策
Vol.3 隠れた”IT投資をあぶり出し
企業戦略の根幹もアウトソースへ
  Vol.4 ネットを襲うリスクを管理し
障害に耐えて事業を継続する
Vol.5 ビジネスを支えるITインフラ
業務アプリとの分界点を明確に
  Vol.6 導入需要が成熟した環境下での
ネットワーク・アプリの新たな潮流
第2部 「ネットワーク・テクノロジー」
Vol.1 性能や稼働率の管理は全体を見て
局所的な視点では解決しない
  Vol.2  ネット構成の自由度高い広域イーサ
アプリの品質重視ならIP-VPN
Vol.3 ネットワーク・トポロジを再認識して
堅牢かつ柔軟なLAN/WANを
  Vol.4 IPv6はセキュリティ強化に活用
立派すぎるプロトコルは使えない
Vol.5 IP電話を真に活用する時代到来
システムや開発環境が成熟期に
  Vol.6 ネットワーク技術は流れが速い
経営とシステムの接点を忘れずに
第3部 「アプリケーションとネットワーク」
Vol.1 SOA時代のキーテクノロジー
オンデマンド・ネットワーキング
  Vol.2  アプリの処理をネットが支援
目的に合わせた連携体制を
Vol.3 一筋縄でいかぬレスポンス改善
システム全体の資源を見渡す
  Vol.4  ネットワークの仮想化が支える
自律的コンピューティング
Vol.5 ビジネスの継続性を実現する
アプリケーション・リカバリ
  Vol.6  オートノミックと仮想化の
切っても切れぬ深い関係
第4部 「ビジネス・レジリエンス」
Vol.1 災害対策の視点だけでは不十分な
ビジネス・レジリエンスの実現
  Vol.2  LAN,WAN,NICの冗長化に見る
ネットワークの高可用性設計
Vol.3 個人情報保護対策に不可欠な
漏えいリスクと利益のバランス
  Vol.4 災害時に矛盾無くデータを復旧
カギを握るデータの一貫性保持
Vol.5 無理・無駄のないBCPに不可欠な
復旧の優先順位付けと事後検証
  最終回 縮こまるな!
ネットワーク・エンジニア


連載にあたって

 1年間にわたり連載を担当します日本IBMの山下 克司です。

 ネットワーク機器の急速な低廉化が進んできた結果,企業にはネットワークが広く普及してきました。しかし投資が一巡し,ネットワークの時代といわれていながらネットワーク・サービス業界には閉塞感が漂っています。こういった空気を吹き飛ばし,元気なネットワークを復活させるためには,新しい視点から企業ネットワークに取り組むことが必要だと感じています。

 今回は「つなぐだけではもう通用しない〜理論派ネットワーキング」と題し,企業ネットワークの構築を進める技術者の立場から元気なネットワークを応援していきたいと考えています。

 私は現在ネットワーク技術者ですが,経理や販売管理など業務系データベース・アプリケーションの開発・技術支援をしていたことがあります。
 IBMがダウンサイジングの波をかぶった90年代には,レガシー・システムからオープンシステムへの移行,ATM(非同期転送モード)による企業ネットワークの構築などに取り組んで来ました。その中でクライアント/サーバーの隆盛と衰退からインターネットの黎明期も経験し,貴重な体験を得られたと感じています。

 こうした経験を経て,ネットワークを利用するアプリケーション技術に関して得た知識を利用して,コンサルティングの活動もしています。


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