2000年以来,ネットワーク機器の低廉化やブロードバンドの普及に伴う回線サービス価格の下落が,ネットワークのコモディティ化を急速に進めた。コモディティ化とはエンジニアにとって,これまで培ってきた技術が成熟を迎え,いかなる状況にあっても最低限の機能でしか貢献できないし,期待もされないということを意味している。
しかし,ネットワークが企業ITシステムに果たす役割が小さくなっているわけではない。いまやネットワークを使わないITシステムはない。求められる機能や特性もこれまでのネットワークとは大きく異なる。
この連載は23回にわたって,4部構成でお送りしてきた(図)。各回を振り返って,ITシステムのインフラストラクチャとしてのネットワークは,「つなぐだけでは通用しない」ことを再確認したい。
第1部「ビジネス投資とネットワーキング」
基本的なネットワーク接続のサービスそのものがコモディティ化してしまっている中では,安価であることがサービスの最も重要な価値であるかのような錯覚を覚えてしまう。しかし,情報化社会ではネットワークに新たな価値が求められている。価格下落に伴うTCO削減と,付加価値を高めた戦略的な投資の二面が存在しているのである。第一部では,こうした環境下で企業がネットワークに投資している理由を正しく理解することが重要になっていると述べた。
まず,企業がネットワークに投資する理由を大きく二つに分ける。一つは生産設備やIT資源などを最適化し,同じ生産量を少ない資源で実現,スリムな経営環境を実現することだ。一方でこうした最適化投資には縮小均衡の危険が潜んでいる。市場規模や顧客の需要に変化を引き起こすことができなければ,生産性の向上やTCOの削減といった最適化投資が営業部門や事業予算の縮小などにつながり,内向きの投資になっていく危険がある。だからこそ大切なのが明確な投資回収の計画(ROI)である。
第2部「ネットワーク・テクノロジー」
トラブルが発生したときのネットワーク・エンジニアの常套句「帯域には問題ありません」「ルーターには何のエラーも発生していません」「目立ったパケット廃棄はありません」。こうした態度は問題を何一つ解決しない。
ネットワーク・エンジニアが管理している範囲はネットワークである。当たり前のことだ。しかし,ネットワーク技術には何の価値もなくなってコモディティ化してしまった現在,ネットワーク単体の課題が無いからといって,システム間の課題が解けるとは思えない。現代はネットワークはネットワーク・エンジニア,OS・ミドルウエアはインフラストラクチャ,アプリケーションはシステム・インテグレータ,と明確に役割が分かれ,専門化してしまっている。オープン・スタンダードの流れに沿ってシステムを分割してきたため,各コンポーネントがスタンダードを遵守していれば動作するという前提のもとで,あまりに複雑化してきた結果の産物だ。そしてスペシャリストという枠に閉じ込められたために,システム全体像を把握できる人材が不足してきており,これはIT業界全体の悩みではないだろうか。こうした環境の中で,各コンポーネントのエンジニアが各自の課題だけに集中していては,解決できる問題も解決しなくなってしまう。
第3部「アプリケーションとネットワーク」
「ネットワーク・エッジ・モデル」という表現がある。サーバーのインフラストラクチャとしての機能をネットワークの末端部に取り込んでいくモデルである。代表的なものがファイアウォール,SSLアクセラレータ,負荷分散装置などである。
ネットワークはこのアプライアンス群を生かしてアプリケーションの処理体系を支えていく。ネットワークの設計においてはアプリケーションにおける処理の構造=トポロジを理解している必要がある。
第4部「ビジネス・レジリエンス」
ネットワークの可用性は企業ITシステム全体のレジリエンスを決定する要因となる。ネットワークは常に切断,故障などのトラブルに直面している。他のITシステム・コンポーネントに比較すると,格段に多くのサブコンポーネントによってできているからだ。また,ルーティング・プロトコルやブロードキャスト,マルチキャストなどは,End-to-Endの経路だけではなく周囲にも影響される。この大量なシステム・コンポーネントのどの部位に障害が発生してもネットワークは全体で停止,あるいは性能劣化してしまうため,障害の発生率が高い。そうした理由からネットワークの設計には常にバックアップ経路が考えられてきた。こうした高可用性の考え方と,BCPの視点はどう違っているのだろうか。
ビジネス・レジリエンスを支えるBCPは,第四部で集中的に扱った。そこでは,一貫してビジネス・レジリエンスについてはネットワークの高可用性だけではないバランスの取れた戦略が必要だと述べてきた。
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山下 克司
(やました・かつし)

日本アイ・ビー・エム
ネットワーク&サイトインテグレーションサービス事業部 シニアコンサルティングITスペシャリスト

87年,日本IBMの研究開発部門に入社。その後SEとして営業部門に転じ,オフィス・コンピュータのS/38,AS/400のデータベース・アプリケーションの開発および技術支援に携わる。2000年にネットワーク・サービス事業部に異動。ネットワークの視点から,企業の基幹業務システムや情報基盤のコンサルティング,設計,構築を手がける。2003年から現職。日本IBMではネットワーク・サービス事業部全体の技術戦略を担当している。IBM全世界共通の基準で優れた技術力を有する社員に与えられるIBM
Certified Professionalの資格を持つ。 |
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