─東京オリンピック・パラリンピックの2020年開催が決まり、
東京では五輪を契機とした新しいまちづくりの取り組みが始まっている。
新ビジネスの可能性も期待されているが、現状をどのように捉えているのか。

望月 洋介 日経BPクリーンテック研究所 所長

宮嵜清志

市民生活では安全・安心が何より優先される。その観点から考えるなら、老朽化が加速度的に進む都市インフラを、2020年とさらにその先を見据えて、どう維持補修していくかが課題になると考えている。一方では、建設業界への就業者数は技能労働者を中心に減少が進み、高齢化も進行している。五輪開催までの期間は、日本を支えてきたインフラの維持補修、管理を今後どうするのか、根本から考え直す良い機会になると考えている。課題が多いということはビジネスの可能性も大きいということだ。インフラ維持補修の未来のモデルを日本が世界に示すチャンスでもある。

望月洋介

「日本の将来推計人口」によると日本の全人口は2020年に約300万人減少するが、東京都の人口は約1335万人とピークを迎え、その後は東京でも人口減少に転じていくと予測されている。インフラには、人口増加や拡大を前提とした開発思想からのパラダイムシフトが求められていて、東京の人口がピークに達するまでの間にやるべき対策は枚挙に暇がない。

 例えば、国交省は「インフラ長寿命化基本計画」で、2020年までに国内の重要インフラの約20%にICT、センサーやロボットを積極的に導入して維持補修を行う方向性を定めた。さらにその後の10年で一気に100%に引き上げる計画だ。つまり政策的には、2020年までにインフラ長寿命化のための新技術の開発・導入の標準モデルをつくろうとしているわけで、この標準モデルの仕様に入れなかった企業は、以後は完全に蚊帳の外になるということだ。

桔梗原富夫

一部の大手ベンダーは社会インフラ事業が次代の大きな柱になると見ており、縦割りだった情報通信部門と社会インフラ部門について人事交流も含めて連携する動きが盛んになってきている。

望月洋介

2年にわたり主催したスマートシティサービス研究会では、参加者の中には小規模のICTベンダーが多くいた。中小ベンダーでも社会インフラへの関心は高まっていると感じたが。

桔梗原富夫

二極化が進んでいるのではないか。インフラの維持補修にICTを導入するという話題は、まだリアリティを感じていないICT企業も多い。そうした企業は従来からの法人向けシステムをビジネスの中心と捉えているが、これからもこの市場だけで生き残っていけるのかは疑問だ。非常に広大で肥沃な社会インフラという市場があることについて、ICT企業の経営者やエンジニアたちをどう啓蒙するかも課題だと思う。

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日経BP社の研究所は未曾有のビジネスチャンスに何を提供できるのか

宮嵜 清志 日経BPインフラ総合研究所 所長

宮嵜清志

今の話は5年前なら、おそらく誰も分からなかっただろう。実は高速道路のメンテナンス分野では、早い時期からICTの導入に向けた研究が進められていたが、以前は、何をやっているのか社内でほとんど理解されなかったそうだ。それがこの数年で評価が大きく変わったという話を聞いたことがある。

桔梗原富夫

一方でICTのほうも、やりたくても技術的にできないことが多かった。それが現在は、技術が格段に進化し、クラウドやビッグデータを簡単に活用できる時代になった。これに自動車、家電製品、産業機器、建物設備などのような「モノ」をインターネットに接続し、制御、管理するIoT(Internet of Things)の技術が加わることで、ビジネスチャンスはさらに広がる。

 GPSと通信システムを建設機械に搭載し、稼働状況を遠隔で集中管理するコマツのKOMTRAXはよく知られている。ICT Japan 2013 Award(日経BP社主催)でグランプリを受賞した、医療用分析装置大手のシスメックスの「SNCS」は、KOMTRAXの医療機器版ともいえる遠隔監視システムであり、それを活用して緻密な顧客サポートを提供し、競争優位を確立している。

望月洋介

センサーの単価は安いので、民生品ほど数量が出ないインフラ用のセンサーを、単に販売するだけのビジネスは成立しにくい。これをデータ収集の機能を売ることに視点をシフトするだけで、新しい付加価値の高いビジネスの可能性が見えてくる。ただし、エレクトロニクスだけでは無理。ICT、機械、建設だけでももちろん無理。新しいコラボレーションや新しいパートナーとの連携は必至だ。急がないと乗り遅れてしまう。行政が縦割りの問題で苦労しているように、各業界も縦割りの傾向が強い。「2020年」という目標設定は、それを崩すよい契機にもなると捉えていい。

宮嵜清志

ICT業界のソリューションベンダーと、電器メーカーやセンサーメーカー、さらに建設業界が、顧客の共有化や共同営業などを通して、今、持っている技術で何ができて、どれくらいの新規売上が見込めるのかを実践してみることが重要だ。理想だけでは誰もついてこない。さらに、目標を示すことに加え、異業種の企業同士のビジネスステージを実践的に設けて、それをコアにさまざまな人材を集めたり、アカデミアの知見を加えながら、業界にまたがるムーブメントをつくりだすことも、日経BPの3研究所には求められていると感じる。中立的な立場でそれぞれの専門メディアを牽引してきた私たちが連携して、目標を共有する者同士が業界の枠を超えて集まれる場をつくることが、これからの役目かもしれない。

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2020年日本のソリューションがアジアのビジネスモデルになる

桔梗原 富夫 日経BPイノベーションICT研究所 所長

桔梗原富夫

もともとの発想・思想や文化が違う異業種をどうやって同じ舞台で協働させるかも課題だと思う。インフラの例として橋梁を挙げるなら、橋の寿命は100年以上でも、ロボットやセンサーの寿命はおそらく10年程度、ICTに関してはさらに寿命は短くなる。橋を、ロボットやセンサーを使いビッグデータを活用してチェックする時、信頼性という切り口で、異業種の技術者同士の話は噛みあうのか。こうした寿命の設定の議論は、多様な視点を持つ人たちが関わらないと成立しない。共通理解のための基準の設定や、協働のための環境整備を含めて、私たちの経験が生かされるはずだ。

宮嵜清志

インフラの維持補修技術を局所的に捉えるだけでは意味がない。2020年を契機に異業界が集まって新しいビジネスモデルをつくり、要素部品からサービスの領域、データ解析のノウハウまですべて組み合わせた形で世界に進出するという発想に切り替えないと、価格競争に巻き込まれる。日本ブランドのものづくりへの信頼はまだあついし、実際、きめ細かなものづくり技術はアジア諸国と比べて一日の長がある。このアドバンテージが生きているうちに新しい手を打つ必要がある。

 例えばICT分野では一部で既に導入されている成果報酬型モデルを、新興アジアでのインフラ構築でも適用できるように積極的に提案していくべきだろう。このモデルは、クライアントは初期投資を抑えることができる半面、事業者側は製品やサービスの品質が低かったり、維持補修コストがかさんだりすると利益が出ない仕組みだ。言い換えれば、製品・サービスのロングライフ性において、他国の同種製品と比べて優れている、日本ならではのモデルだと思う。日本の強みを生かして、アジアなど海外で優位にビジネスを進められるかもしれない。

望月洋介

日本の人口が減っていくのはほぼ確定的ななかで、手をこまぬいていては企業自体も衰退してしまう。2020年までの数年間は、社会インフラのビジネスモデルも含めて、あらゆるものを考え直す千載一遇の、そして、もしかしたら日本企業にとって最後のチャンスなのではないか。

鼎談風景

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