当欄の読者なら1日あたり数十通,人によっては100通を超える電子メールを受信しているだろう。では,そのメールのうち迷惑メール(スパム・メール)は,どれくらい含まれているのか。日経コンピュータ1月26日号のテクノロジフロンティア欄で,迷惑メール対策の記事を書きながら,疑問に思っていた。「迷惑メールによって,本当に迷惑している人はどれくららいいるのだろうか」と。

 確かにIT業界では,最近になって迷惑メール対策をめぐる動きが活発になっている。Webメール・サービスを提供するMSN JapanとYahoo! JAPANが,共同で迷惑メール対策に取り組むことを発表したり,迷惑メール対策ソフトが昨年末から相次いで登場したりしている。迷惑メール対策ソフトを販売するベンダーに聞くと,特に海外とやり取りをすることが多い商社や海外拠点を持つメーカーで,導入が増えているという。

 最近では2004年1月に,インターネットイニシアティブ(IIJ)が米国のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)や電話会社19社と共同で迷惑メールの送受信を防止するための国際的な業界団体を設立した。米国内では昨年末に,迷惑メール送信業者に対して,罰金や禁固刑を科す厳しい法律が成立したばかりである。

 ところが,まわりの知人などにいろいろ聞いても「迷惑メールでとても困っている」という話はまず聞かない。「携帯電話への迷惑メールは多かったが,最近は少なくなった。会社のメール・アドレスにはまず来ない」という。筆者も同じ感覚である。

 ISPや携帯電話会社に取材すると,大量の迷惑メールでシステムの負荷が急増し,サービスの継続が危ぶまれる被害が出ている。だがメールのユーザーという立場からすると,そこまでの深刻さはない。

 例外なのは,編集部が読者の方からの意見を聞くために日経コンピュータのサイトで公開しているメール・アドレスである。ここには連日60通程度の迷惑メールが届くものの,「とても迷惑している」というレベルではない(メールをチェックしている編集長は迷惑だと思っているかもしれない)。

今のうちに対策を打つ

 こんなわけで迷惑メールについて取材する前は,「今のところ迷惑メール対策は不要」と思っていた。だが,そうではなかった。いろいろ話を聞くと,「迷惑メールが来ないうちから対策をするのが得策」だという。

 日本IBMが無償公開しているスパム対策の文書「スパム・サバイバル・ガイド」には,スパム対策の第一歩として「そもそもスパムが送られてこないようにする」と書かれている。

 具体的には,迷惑メール配信業者がどのように配信用のメール・アドレスを収集しているかを理解して,この配信リストに仕事で使っている大切なメール・アドレスが掲載されないよう“努力”することを意味している。IBMが推奨する方法は,例えばこういうものだ。

・迷惑な広告宣伝メールに対して,返信しない。配信拒否の返事をしない。
・Webサイトや掲示板で,メール・アドレスを公開しない
・仕事に関係のないメールには,個人用のメール・アドレスなどを使う
・他人にメールを送るように勧めるチェーン・メールは無視する
・社外の複数の関係者にメールを同報するときは,bcc欄にメール・アドレスを入力する

 迷惑メール対策というか,電子メールのマナーに相当するものも含まれるが,メール・サーバーの管理者は,まず社員にこれらを徹底させることが重要だという。

 迷惑メール配信業者は専用のソフトを使って,Webページに掲載されてるメール・アドレスを自動的に収集している。どうしてもWebサイトにメール・アドレスを公開しなければならない場合でも,効果的な方法がある。例えば,メール・アドレス部分を画像ファイルにする,メール・アドレスの一部に「NOSPAM」という文字を入れて「computer@NOSPAMnikkeibp.co.jp」などと表記する方法がある。いずれも,人が見れば正しいメール・アドレスを読みとることができるが,メール・アドレスの自動収集ソフトでは,正しいメール・アドレスを読みとれない。

メール・アドレスの不正取得を阻止する

 もう一つ重要なのは,メール・アドレスの不正取得を防止するというものである。迷惑メール送信業者はメール・アドレスを取得するためにまず,ランダムに生成した大量のメール・アドレスを使って,メール・サーバーに広告メールを送り付ける。

 ここで無防備なメール・サーバーは,正しいメール・アドレスの場合はそのまま受信者に配信し,誤ったメール・アドレスの場合には,送信元に「ユーザー不明(user unknown)」のエラーを返す。迷惑メール送信業者はエラーの有無を参考にして,有効なメール・アドレスのリストを作成している。

 こうした行為は,サーバー用の迷惑メール対策ソフトで防ぐことができる。迷惑メール対策ソフトは,迷惑メール送信業者が行う特徴的なサーバーへのアクセスを検知して,通信を遮断したり,エラーを返さずにメールを受信したふりをする,といったことができる。

 いくら対策を講じても,対策方法がわかればすぐにその裏をかかれるというのが常である。ウイルス対策ベンダーの製品開発担当者は,「迷惑メールはウイルスとは異なり,プログラミングの知識がなくても,簡単に“亜種”を作れてしまう。迷惑メールの検知は,ウイルス以上に困難」と指摘する。

 すでに,迷惑メール対策の裏をかく新手の迷惑メールも登場している。興味を持たれた方は,記事の一部をこちらのページで紹介しているので,ご覧下さい。

(坂口 裕一=日経コンピュータ)