地震の大きな揺れが来る前に情報を伝える「緊急地震速報」。これを応用した沖電気工業の「リアルタイム地震防災システムBASIC(JBS-02)」は、ユーザー企業の事業継続計画(BCP)の策定支援にも使える。

 「震度6、10秒後。9、8、7」―。沖電気のJBS-02は、地震による強い揺れの到来を察知すると、こんな非常放送を自動的に流し、接続してある装置や設備を停止もしくは動作させる。工場に設置した場合であれば、薬品やガスなどの元栓を閉め、稼働中の生産設備を自動停止させる。人員の被災や生産設備の損壊だけでなく、揺れによる薬品やガスの流出、引火といった二次災害を未然に防ぐためにも有効だ。

BCPソリューションの提案に有効

 こうした防災システムを導入すれば、情報システムの運用にも大いに役立つ。ハードディスクが破損したりシステムが障害を起こしたりする前に、データの記録先やサーバーを別のシステムに切り替えるなど、何らかの対策を取っておくことができるからだ。データセンターのように外部からデータを預かっている場合は、サービスの大幅な信頼性向上につながる。

 政府は2005年8月に「事業継続ガイドライン」を公表し、BCPに取り組むよう一般企業に求めている。BCPの策定こそ浸透してきたものの、緊急地震速報を利用した事前の“防衛策”にまで踏み込む試みは、大企業を除いてまだ少ない。地震大国でもある日本において、わずか10秒程度とはいえ猶予がある意味は大きい。BCPの市場を開拓しようとするSIerにとって、防災システムを含めたソリューション提案は新たなビジネスチャンスにつながるはずだ。

地震波の速度差をキャッチ

 大きな揺れの到来をどうやって予測するのか。JBS-02は、気象庁が10月1日から本格運用を始めた「緊急地震速報」の仕組みを利用している。

 緊急地震速報は、全国約1000カ所に設置してある地震計のデータを基に、震源の位置と地震の強さを伝える。地震発生直後に伝わる初期微動(P波)を地震計がとらえ、震源や揺れの強さを推定し、遅れて伝わる強い揺れの主要動(S波)が到達する前に、速報として配信する(図1)。

図1●地震発生の警報が発令される仕組み
図1●地震発生の警報が発令される仕組み
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 JBS-02は、この速報をインターネット経由で再配信する情報サービス会社からデータを受信して、設置場所にどの程度の揺れが何秒後に到来するか算出する。大きな揺れがやってくると判断した場合、すぐに非常放送や電子メールの配信など、さまざまな動作を自動で実行する(図2)。

図2●地震防災システムの主な用
図2●地震防災システムの主な用

 緊急地震速報を利用した企業向け防災システムは複数のITベンダーが販売しているが、沖電気の製品はその先駆けだ。同社は2005年、通信衛星から受信したデータと専用の地震計を併用した防災システム「JBS-01」を開発。JBS-02は数千万円と高額だったJBS-01の基本機能に絞って小型化し、本体価格を約250万円に引き下げた。

 「装置の信頼性が高く、1台でさまざまな出力に対応させたのでシステム構築が容易になっている」。JBS-02を共同開発した沖電気の子会社、沖環境テクノロジー第二事業部技術チームの大森伸彦氏は胸を張る。

 具体的には、機械部がないメカレス設計として信頼性を高めた。装置内部の基板は二重化され、不具合が発生すればサブ基板に切り替わる。それでも故障した場合に備え、「早ければ数時間以内に代替機と交換できる体制を敷いた」(沖環境テクノロジーの古屋裕基取締役第二事業部長)。

サーバーとの連携も可能

 警報の精度を高める工夫もしてある。緊急地震速報は、震源から近い地震計が初期微動を検知して初めて、第一報が発令される。その後、初期微動を検知した地震計が増えるなど情報の精度が高まれば、数秒以内に次の速報が流れる。JBS-02は、この速報が届くたびに揺れの強さと到達時間を再計算しているので、より正確な警報を発令できるという。

 既存の設備やシステムと連携しやすくするため、外部接続用のインタフェースは豊富。外部機器の制御用に三つの接点出力端子を備えるほか、外部音声出力やRS-232Cポート、パトライト製の地震速報表示端末への接続端子を持つ。地震計と連動させることも可能だ。「出力データに対応したソフトを開発すれば、パソコンやサーバーとも連携できる」(大森氏)。

 沖電気は主にグループ会社を通じてJBS-02を拡販する計画である。現在は製造業や金融業からの引き合いが強く、サーバーのバックアップ用途で導入を検討する事例もあった。既に大規模病院などへの導入実績があり、古屋取締役は「年間100台の販売を目指したい」と言う。